
前回は聴解や発音授業の一環で行われるシャドーイングについてお話しました。今回は会話授業について取り上げたいと思います。日本語教育の参照枠では、4技能のうち「話すこと」を「やりとり」と「発表」の2つに分けています。今回は前者の「やりとり」について考えていきましょう。
たくさん話させているのに……
「学習者にたくさん話をさせているのに、会話の授業をしてほしいと言われました」おかしな話ですが、実はよく聞くお悩みでもあります。学習者が考えている会話の授業と、実際の授業にどうやら乖離があるようです。
皆さんは会話練習と聞くと、どんな練習をイメージするでしょうか。たとえば、教科書にはよくこのような練習が載っています。
A:すみません、私の(かばん)がありません。
B:どんな(かばん)ですか。
A:<くろくておおきい>(かばん)です。
B:これですか。
A:はい、そうです。ありがとうございます。
①かばん/くろい・おおきい ②さいふ/ちゃいろい・ちいさい ③かさ/ながい・あかい
例を聞いて、一文ずつリピートして、ペアで練習する。これを全文暗記して、クラスで発表するということもあるでしょう。( )の部分を①~③に入れ替えて、適宜変形させてやりとりするというパターンもあると思います。学習者が口を動かしてやりとりしているので一見会話しているように見えますが、このやりとりは相手が何を言うか発話する前から分かっていますし、それに対する自分の反応もまた決まっています。
もちろん上記のような会話のパターンを覚えるのも大切な練習の1つですが、普段私たちが行っている会話とは大きくかけ離れています。本来のやりとりは相手が何を言うかわからないものですし、それを聞き取ってからの自分の反応も予め決まっているものではありません。そして、自分の話したいことはそこに含まれていないのです。
冒頭のようなリクエストは、恐らくこのような定型会話の暗記だけの授業ではなかったかと推測されます。では、より自由度が高く、学習者自らが組み立てる練習とはどんなものでしょうか。いくつか例を見ていきましょう。
自分で組み立てる会話例①ロールプレイ
もう少し自由度の高いものとして行われるのがロールプレイです。これはそれぞれのロール(役割)と状況が設定されていて、それに合わせた会話を作るものです。たとえば下記のようなロールカードを読み、その状況に合わせて学習者同士でやり取りを行います(ロールカードの指示は学習者の母語に訳したものでもかまいません)。
A:あなたは教室でカバンを失くしました。学校の事務室へ行って、カバンが届いていないか聞いてください。
B:あなたは学校の事務員です。学生が来ました。いつ、どこで、どんなものを失くしたか聞いてください。連絡先も聞いてください。
ロールカードの内容を理解したら、カードを伏せて、それぞれのロールを確認します。カードを見ないようにするのは、会話を作らずにカードを読み上げ、臨場感なく一文で終わりにしてしまうことを避けるためです。
【ロールカードを読み上げてしまう悪い例】
L1:えーと、(読む)教室でカバンを失くしました。学校の事務室へ行って……カバンが届いていないか聞きます……カバンが届いていませんか。
L2:(読む)いつ、どこで、どんなものを失くしましたか。連絡先は何ですか。
「では、学生さんはまず何と言いますか」というように第一声だけみんなで共有してから始めると、スムーズに始めることができます。事務員役の学習者は必要な情報を聞き出す質問を考えます。学習者は失くしたもの、場所、時間などを自分でイメージして会話を作ります。先ほどのロールカードは学校での学生の会話でしたが、同じ失くしものでも、子どもの忘れ物を探すお母さん、駅に問い合わせるビジネスパーソンなど、ロールカードの内容は学習者のニーズに合ったものを選びましょう。
自分で組み立てる会話例②質問作り
新出語を使って質問を作る練習です。質問を作るのは教師ではなく、学習者自身です。
例) 違反
①道でどんな違反したことがありますか。
②短いスカートは校則違反ですか。
たとえば「違反」という言葉が新出語として出てきた場合、学習者から次のような質問が出てきました。教師は学習者のやりとりを見ながら、よりわかりやすい質問の形や答えに必要な語彙をサポートしていきます。
①の場合は「交通違反」ということばを新たに導入し、学生の答えから「横断歩道」「信号無視」などと語彙が拡がっていきました。②の場合、「このぐらいはOKでした」という答えに対して「膝上はだめ」や「くるぶしまで」など足の名称を補足していきました。もっとやさしいことばを使えば初級でもできる練習方法です。
教室内ではどうしても教師が質問する人、学習者が答える人という立場になりがちです。しかし実際の生活ではどうでしょう。学習者はわからないことを誰かに聞きたい、質問したいと言う状況に置かれることが多いのではないでしょうか。自分で質問を組み立てる練習というのは案外少ないように思います。最初は簡単なYes-Noクエスチョンしか作れないかもしれません。でも次第に疑問詞を使った質問が作れるようになります。隙間時間を使ってトレーニングしていきましょう。
新出語だけでなく、読解や聴解後、内容質問を学習者自身に作ってもらい、全員で解答を考えると言うのも1つの方法です。聞きたいことがうまく聞けない場合は教師が助け舟を出し、わかりやすい質問文が作れるようにサポートします。
これはごく初級からできることです。まずは教室にあるものを自由に指さして「これ(それ・あれ)は何ですか」と質問してもらうことから始めてみましょう。
自分で組み立てる会話例③読解・聴解からのやりとりとピンポン・ディスカッション
読解や聴解を行い、内容を理解した後、その内容について感想や意見を述べ合う練習です。
・ニュースを読んで(聞いて)自分が当事者だったらどうするか話し合う
・物語を読んで一番共感できる登場人物は誰だったか、それはどうしてか話し合う
・話の続きはどうなったと思うか「その後」について話し合う
同じ読み物を読んでも感想は異なります。 読後=読書感想文というイメージが強いですが、感想文や意見文などを書く個人作業に入る前に、相手の思いを聞き取り、それに対して自分の考えをまとめて言葉にするやりとりを行うことでより一層理解が深まりますし、シナリオのないやりとりは会話力向上にも役に立ちます。
いかがでしたか。定型会話を覚える練習も大切ですが、学習者が自分で話したいことを自分で組み立てることができるようになるために、会話を作る練習も意識的に取り入れていきましょう。
執筆:望月雅美
さまざまな日本語教育機関でこれまで8~88歳の日本語クラスを担当。現在、埼玉大学日本語教育センター非常勤講師兼諸々。著書に『日本語教師の7つ道具シリーズ1授業の作り方Q&A78編』(大森雅美名義、共著)『どう教える?日本語教育「読解・会話・作文・聴解」の授業』(共にアルク)などがある。音楽と笑いと自然を愛する3児の母。




