
最近では市販の日本語のシャドーイング教材も増え、学習者のニーズに合わせてさまざまな教材を選べるようになりました。とは言え、シャドーイングを始めてみたいものの、やり方がよくわからないという戸惑いの声も聞きます。そこで今回は、聴解もしくは発音の授業の一環で行われるシャドーイングについてお話したいと思います。
シャドーイングとは
シャドーイングとは、音声を聞きながら、声に出してそれを真似していく練習方法です。一文一文リピートするのではなく、聞こえてきたそばから影(shadow)のようについて発音をしていきます。これによって、日本語のことばのアクセントや文全体のイントネーションをまとまりとして体感し、音声と同じ速さで発音することができるようになることを目指します。
シャドーイングのオリエンテーション
シャドーイングを始める際、まず、筆者は①同じ速さで、②同じイントネーションで、③滑らかに発音できるようになる――という3点を意識して行うことを目標に、学習者に向けて下記のような説明をします。
「これは音読の課題ではなく、聞いたものを口に出す課題です。例と同じ速さで、同じアクセント・イントネーションで、滑らかに発音できるようになるまで練習しましょう。」
「音源と同じ速さでシャドーイングできるようになれば、同じ速さの日本語が聞き取れるようになると言われています。生のニュースやドラマが聞きとれるようになりたければ、シャドーイングをがんばりましょう!」
「日本語は強弱アクセントではなく、高低アクセントが大切です。『ぉはぁっよぅござぁっぃます(「は」と「ざ」を大げさに強く言ってみる)』というと聞き取りにくいのですが、『ン、ン、ンー、ン、ン、ン、ウン、(「ン」の音に高低をつけて「おはようございます」のイントネーションで言ってみる)』というように高低が合っていると、とても聞き取りやすくなります。これを練習して聞き取りやすいイントネーションを目指しましょう。」
説明が終わったら、例を聞かせます。その場で音源を流しながら教師がやってみせるのも良いですが、できれば実際にシャドーイングしている音声を聞かせるのかわかりやすいのではないかと思います。(拙著からシャドーイング例の音声がダウンロードできますので、よろしかったらお使いください)
シャドーイングの手順とフィードバック
次に、手順を説明します。
① まず、スクリプトを見ないで音声を聞く
② スクリプトを見ないで、シャドーイングしてみる
③ スクリプトを見る
・聞き取れなかったところを確認する
・助詞、動詞や形容詞の形、語彙の清濁が正しかったかどうか確認する
④ スクリプトを見ながら、シャドーイングする
⑤ スクリプトを見ながら、一文ずつ完璧になるまで練習する
⑥ 全文を通してシャドーイングする
クラスで行う場合、②は周囲の聞き取りの邪魔にならない程度に声を落として行い、③では聞き取れなかったところをクラスで共有し、間違えやすいところを集中的に練習する時間を設けます。クラスの人数やレベルにもよりますが、個人差が出る⑤⑥は宿題にしても良いと思います。その場合、各自シャドーイングした音声を各自録音し、メール等で送ってもらいます。
送ってもらった音声に対し、フィードバックを音声で行うというのも1つの方法です。学習者の録音で気になった発音を教師の声で送り返すのです。間違いをスクリプトに書き添えて返却するという方法もありますが、音声の間違いは音声で伝えた方がわかりやすいようです。録音が教師の負担になる場合もあるかと思いますので、その場合は返却時に一言口頭でアドバイスを添える、クラス全体で間違いが多かった部分を口頭練習する、といった方法が考えられます。
シャドーイングでやってはいけないこと
下記のことはやらないようにクラスで周知しましょう。やってしまうと、シャドーイングの効果がでなくなります。
✕ 例を聞かずにスクリプトの音読をする…同じ速さで言おうとしていない時点で例を聞いていないことはすぐにわかります。その場合、「音読の課題」ではないことを再度アナウンスします。
✕ 意味がわからないまま、シャドーイングをする…意味を理解しながら聞くことが大切ですので、もし意味がわからなかったら補足説明を加える、辞書などで確認させるなどしてから再度挑戦してもらいます。
✕ 1回しか聞かない…音声の真似ができるまで、何度でもくり返し聞くことが大切です。
✕ 発音に気をつけない…最初はできなくてもOKです。意識することが大切です。
以前、「シャドーイングを録音して送ってください」という指示だけで宿題を出したところ、ゆっくり丁寧に音読を録音してきた学習者がいました。音読としては完璧なのですが、それではシャドーイングの効果はありません。
そこでもっと具体的に、音源の秒数を示し○秒で全部読み上げることと、音源と学習者のイントネーションの違う部分を真似してみせ、例と同じ速さで、例と同じイントネーションで挑戦するように伝えたのです。結果は素晴らしいもので、本人も満足そうな笑顔でした。
シャドーイングの効果
シャドーイングは聴解力や発音を強化するだけでなく、語彙力、速読力、会話力の向上などにも効果があると言われていますが、筆者が特に感じたシャドーイングの効果は次の3点です
まず1点目は、単音の発音の悪さをアクセントの正確さで補える場合があることです。たとえば「ざ」の発音が苦手で「雑誌(ざっし)」が「じゃっし」となってしまう場合でも、アクセントを正しく「じゃっし(が)」と平板型で発音できていれば、単音が間違っていても「雑誌(が)」という意味がくみ取りやすくなります。もちろん単音を正しく発音できるに越したことはないのですが、語彙や文になった場合、単音に苦手意識を持って恐る恐る発話するよりも、正しいアクセントで、自信を持って発話した方が通じやすくなるのです。
2点目は、日本語をまとまりとしてとらえられるようになることです。特に、文法を中心に勉強してきた学習者は頭で文法を考えながら発話するため、「責任、を、負い、かねます、ので」などと、たどたどしく聞こえてしまう場合があります。シャドーイングでは例と同じ速さで口を動かすことが求められますから、同じ速さでの練習を繰り返すうちに、次第に「責任を負いかねますので」と1つのまとまりとして発話できるようになります。
3点目は、学習者が達成感を味わえることです。最初はたどたどしい学習者もいますし、音声に全然追いつけないと不満を漏らす学習者もいます。しかし、次第にネイティブと同じ速さに慣れてくると、課題以外の音声に挑戦したり課題の音声を1.2倍速にしたりして自ら難易度を上げて提出してくる学習者も現れました。
「学ぶ」は「まね(真似)ぶ」に由来すると言われますが、真似して学ぶシャドーイングは学びの基本なのかもしれません。
執筆:望月雅美
さまざまな日本語教育機関でこれまで8~88歳の日本語クラスを担当。現在、埼玉大学日本語教育センター非常勤講師兼諸々。著書に『日本語教師の7つ道具シリーズ1授業の作り方Q&A78編』(大森雅美名義、共著)『どう教える?日本語教育「読解・会話・作文・聴解」の授業』(共にアルク)などがある。音楽と笑いと自然を愛する3児の母。




