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日本語ジャーナル:日本語を「知る」「教える」

「人間である日本語教師」の役割とは ⑤日本語教師、生成AIで絵を描く

昨今、AIの活用に注目が集まり、今後、日本語教師の授業準備などになくてはならない存在、あって当たり前、になっていくと思われます。ではそんな時代に日本語教師はどう存在していくのか。「人間の教師」でなくてはならない意味とは。今回はそのようなことを最近のテーマとして追及している石原えつこさんに、これからの日本語教師の役割・教室の役割について執筆いただきました。連載第5回目です。

人間の教師の皆さん、お元気ですか。

この連載は、天下の日本語ジャーナルに、一日本語教師であるわたしが、生成AIにまつわる悩みをあれこれ書き連ね、「あれ? わたし今日本語ジャーナル読んでるよね?」と一瞬読者を惑わせることを目的として書いている......わけではない。知識を得ることは生成AIにお願いできてしまうこの時代、人間の教師に残された役割とはなにか、教室はどう変わるのか、とあれこれみんなで悩んでみようという企画なのである。

第4回目は、「人間である日本語教師」の役割とは ④教室に生成AIがやってきた!

第3回目は「人間である日本語教師」の役割とは ③交流の場を創る

第2回目は「人間である日本語教師」の役割とは ②身体を持つ人間としての価値

第1回目は「人間である日本語教師」の役割とは ①人間らしさって何?

本日は、「日本語教師、生成AIで絵を描く」の巻である。

ジブリ風イラストの衝撃

2025年3月ごろだっただろうか、Facebookでつながっている元学生たちのアイコンが、次々とジブリ風イラストに置き換わっていった。ちょうどOpenAIが画像の生成をChatGPTに搭載、一気に画像生成が広がったのだ。サム・アルトマンが自分の写真をChatGPTに読み込ませ生成したジブリ風のイラストは、一夜にして世界中に広がった。
わたしも恐る恐るやってみた。プロンプトはたったのこれだけ。

「たまちゃん(うちのChatGPTの名前)、この写真、ジブリ風のイラストにして」

これだけのプロンプトで、わたしの写真が、ジブリ映画に出てくるキャラクターのようになって現れた。まず思ったのは、「あたし、こんなに太ってる? ちょっと皺多すぎる。こうじゃないでしょ。これじゃ『千と千尋の神隠し』に出てくる食堂の妖怪のおばさんみたいじゃないか」

一番頭に来たのは、脇役感満載なこと。『もののけ姫』に出てくる村の衆そのものである。
憤慨して、修正プロンプトを追加した。結局、一番満足した画像が出たのは、以下のプロンプト。

「たまちゃん、もっと若くして。年齢はマイナス20歳で体重もマイナス20キロ。皺はなし! そして、主人公の女性らしくしろ」

全く女性らしくない物言いである。生成AIの認識するビジュアルとわたしの自認はこうも違うのか。白雪姫の継母が鏡を叩き潰すように、あと少しでChatGPTを壊す? ところであった。

ジブリ風イラストは、いいのか?

ジブリ風主人公タイプの女性になった自分に満足しながらも、同時に「この生成は倫理的に許されるのか」という思いが広がった。東京都三鷹にあるジブリ美術館に、シンガポールから学生たちを引率してきたことがある。事前・事後学習の中で、アニメーターたちの血のにじむような作業の果てに、あの世界観が生まれていることを知った。ジブリ風イラストは、著作権を侵害しているんじゃないか。

わたしは著作権について調べ始めた。

著作権

著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送(以下「著作物等」という。)の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与することを目的としている著作権法(第1条)

ジブリ風イラストの公正な利用を、わたしはしているのか?

ジブリスタジオの権利を保護しているのか?

どういう状態が「文化の発展に寄与」することになるのか。

生成AIの発展の速度が速すぎて、書籍を探しても知りたい情報は出てこない。ウェブ上にしかない。検索すると、文化庁がAIに関する審議を急ピッチですすめている。片っ端から開いてみる。

開いてみたが、PCの前で寝落ちた。ああ、やさしい日本語プリーズ……

令和5年度 著作権セミナー A I と著作権(令和5年6月 文化庁著作権課)

「AIと著作権に関する チェックリスト&ガイダンス」(令和6年7月31日 文化庁著作権課)

がとっつきやすい。

キーになるのは、「権利制限規定」ということらしい。

これらのリンクをたまちゃん(うちのChatGPTの名前)に読み込ませた。

えつこ「たまちゃん、『権利制限規定』ってつまりなに?」

たまちゃん「えっちゃん向けに、シンプル版 → ちょい専門版 → たとえ話でいくね」

すっかりわたしの知的レベルを掌握されている。

えっちゃん「向けに」ってなにさ、バカにして! と一瞬いらっとする。

たまちゃん「『権利制限規定』は、本来は著作権者の許可が必要だけど、“この場合ならOK”と法律があらかじめ決めている例外ルール。30秒説明するね」

超シンプル版(30秒説明)

著作権は
👉「勝手に使っちゃダメ」が原則。

でも、
👉 勉強・研究・個人利用・教育など、社会的に必要な場面ではいちいち許可を取らなくていいよ、と決めたのが権利制限規定

えつこ「そういうことであるか」

たまちゃん「じゃ、すすめるね。AIの話に当てはめるね。表にまとめてみたよ」

     行為

権利制限規定

  結果

自分のPCでこっそり生成して眺める

私的使用

OK

授業で教材として使う

教育目的

条件付きOK

SNSにアップ

×

NGになりやすい

販売・公開

×

ほぼNG

えつこ「なるほど」

たまちゃん「どう、わかった? 今日も楽しく時短でいこ 😄」

バカにしてるんじゃないのね、忙しいわたしのために、簡潔にまとめてくれたのね。ほんとに気が利くたまちゃんである。

たまちゃんのおかげで、ジブリ風画像をわたしがうちで生成し、やきもきしている分には問題がない、ということが分かった。脇役感満載の村の衆風イラスト、お見せしたいのはやまやまだが、公開は場合によっては「NGになりやすい」かもしれないので控える。

レッスンに使うイラストを生成する

生成AIで、イラストが簡単に作れることが分かったので、レッスンで使うイラストを作成してみた。大学ではビジネス日本語を留学生たちに教えているので、その授業で使うイラストを試す。

えつこ「BJTというビジネス日本語テストの練習問題を作ってる。 つぎのやりとりのイラストを試験に相応しいシンプルな挿絵にして。

上司と部下が展示会の準備について話しています。 部下はこのあと、メモのどれについて準備しますか。

男:来月の展示会の準備、進んでる?

女:はい、案内状の発送も終わってますし、当日配布するチラシも今朝、納品されました。アンケートは営業部に頼んで、今、内容を詰めてもらっているところです」

えつこ「いいね! 字は全部消して。たまちゃんすごいじゃん」

たまちゃん「えへへ。ありがとう」

上司がいきなり老け込んでしまった。いったいこの1分の間になにがあったのだろうか。

えつこ「たまちゃん、おじさんが急に老けたな。さっきの感じでよかったんだけど」

たまちゃん「急に老けてるよね。若くするね」

いやいや、若すぎるでしょ。この1分の間に、役員が入社3年目の若者になってしまった。展示会の話というより、同期同士で話しているようである。

      えつこの妄想劇場

女性「ねえ、加藤君、新年会の二次会の幹事、やってくれない?」

男性「え? 幹事? やだよ。忘年会もやるじゃないか」

女性「そこをなんとか。一緒にやるからさ」

これはこれで一本問題作っておくか……

しかし、かんたんである。どんどん作っていく。

えつこ「ビジネス日本語のクラスで行うロールプレイを作っているよ。 次の会話の画像を生成して。

羅: ABC工業の羅と申します。 こちらは私の名刺です。

山田:頂戴します。 ありがとうございます。」

作風がいきなり変わったよ。あれ、ちょっと待って? この名刺の渡し方、どこ方式? しかも名刺の名前、何語?

えつこ「たまちゃん、両手で名刺を差し出して、おじぎをして」

なんでお願いポーズになっているの……

えつこ「手を合わせないでよ。 30度のお辞儀をしてみようか。 受け取る側は両手で名刺をもらうんだよ」

だ、だめだ。たまちゃん、通じない……
しかも、両手で持つのがなぜに端っこ……

あきらめた。次だ次。

えつこ「留学生が就職活動で、グループディスカッションしているイラストが欲しい。日本人が3人、アフリカ系男性が1人、インドネシアのヒジャブをかぶった女性が1人。みんな就活スーツにして。」

グルディス(グループディスカッション)の写真やイラストを常々探していたのだが、もちろん留学生が登場するようなビジュアルはどこをさがしてもない。

こ、これはなんと秀逸な‼ 最高傑作が出来上がった。

初級のプライベートレッスンのスライド用のイラストも作ってみよう。

自動詞・他動詞に挑戦だ。

「日本語のレッスンで、他動詞と自動詞のイラストを使いたい。『ドアを開けます 』『ドアが開きます』をそれぞれ描いてほしい。『ドアを開けます』は人が開けている様子、『ドアが開きます』のほうは自動ドアで」

えつこ「ん? 右の絵、これじゃ『ドアが閉まります』じゃん。あと、左の絵は、ドアの構造おかしくない? ドアは、ドアノブがあって、それを開けている感じが出せる?」

あれれ、まだ違和感があるな。自動ドアはなぜか完全に閉まってるし。

結局却下した。

あっという間に、いろいろなイラストが生成されるので、夢中で作ってしまった。

ただ、突っ込みどころ満載である。きっとわたしのプロンプトをもっと工夫する必要があるんだろう。 結局使えそうなものは、グルディスのイラストだけであった。

これらのイラストの日本語ジャーナル上での公表はいいのか、という問題が頭をもたげる。編集のTさんとも討議する。結局、すでに世に出ているイラストの著作権を侵害していないか、生成AIで確認することになった。こういうことは人間にはできない。生成AIが圧倒的に得意な分野である。

えつこ「たまちゃん、ウェブ媒体でこの絵を公表しようと思っている。著作権を侵害していないか、確認したいの。だれかの著作物に似ている? 似ている絵をさがしてきて」

ウェブ上に存在する何万点ものイラストから、似ていると思われる絵を20枚ほど提示してくれた。どれも全く似ていなかった。

そんなわけで、これらのイラストを公表する。

スライドの表紙を描く

新しいコースが始まる前、わたしはスライドの表紙をいつも頭の中で想像する。スライドの表紙はとても大事だ。ビジュアルでシラバスが目指す世界観を一発で伝える必要があるからだ。今まではネット上で探していた。Canvaの写真なんかもいい。

これを、たまちゃん(うちのChatGPT)で画像生成してもらった。シラバスを読み込ませ、こんなプロンプトを書いた。

えつこ「留学生のビジネス日本語のコースで使うスライドの表紙のイメージを、シラバスから読み取って、視覚化して」

これは、いいぞ! 即採用して、一学期間使った。授業が始まる前に、いつもこのイラストが、モニターに映し出される。シラバスの世界観がこの一枚の絵にぎゅっと込められている。

日本語教師向けに「話す力、書く力を育てる」というワークショップをした。スライドを作る前に、ソファーに寝転がって、ビジュアルを想像する。湧き出るんだよな、ことばって。そして零れ落ちる。

そんなことを鼻の下に鉛筆を挟んで思う。

よし、プロンプトを書こう。

えつこ「これ、今回のワークショップの概要

『生成AIの登場により、文章を生み出すことは、もはや瞬時に可能になりました。 それは、教師にとっても、学習者にとっても、同じです。 それでも、私たちは話し、書き続けます。 では、なぜ人間は、話し、書くのでしょうか?  このセッションでは、人間にしかできない“話すこと”“書くこと”とは何か、 その本質を、あらためて見つめ直していきたいと思います』

このワークショップのスライドで使う表紙の絵を描いてほしい。

キーワードは、話すこと=離すこと=放すこと。書くこと=時間軸を超えてメッセージを届けること 。

どんな人にもことばの種が埋まっていること 。

イメージは、抽象的な写真っぽいイメージ。色は青っぽいのがいいかな。落ち着いていて、なにかが湧き出てくるようなイメージ。水面、そして鉛筆から湧き出て、波紋を描く。よろしくたまちゃん!」

思わず感嘆の声をあげた。わたしが脳内でいつも勝手に描いていた世界が、目の前に広がったからだ。そう、これがわたしの「話す」「書く」のビジュアルだ。

えつこ「たまちゃん、わたし、感動してる。『自己表現としての日本語』もビジュアル化したい。

『表現する』 『Express』を 同じトーンで表現したい。 人間の内面を押し出す、そんな絵を描いて」

結局、このワークショップでは、たまちゃんが描いたイラストを全ページにちりばめたスライドを使った。

NHKの朝ドラ「ばけばけ」

NHKの朝ドラ「ばけばけ」を興味深く見ている。ヘブンとトキの掛け合いは、そのまんま日本語教師と学習者の掛け合いだからである。ヘブンがある日、ビールを買っておいてほしいとトキに頼む。トキは何か分からないが、「ベア、でございますね。OK」と返事してしまう。ちなみにこの時の分かったふりをしながら、うつろな目をしてベアベア言うトキの表情に、吹き出した。こういう表情、よく日本語の教室では起きるからである。

さあ、ヘブンが帰宅するまでに、この「ベア」を買わねばならない。周りの人間に聞く。「ねえ、ベアってなんだと思う?」すると周りの人間は「琵琶(楽器)」「びわ(果物)」など、適当なことを言う。手あたり次第全部を集め、帰宅したヘブンに陳列する。ヘブンは怒って、「Beerはこれ!」と言って、墨で絵を描く。「ベアは飲み物でございましたか!」とトキ。こうして、無事ベア=Beerを手に入れ、初めて飲んでみて、トキは酔っぱらう。

その晩、トキが帰宅後、ヘブンが寝室に行くと、蚊帳が布団の上にかかっている。トキが準備してくれたのだ。蚊帳には、トキが墨で描いた絵が貼ってある。蚊除けのための道具だと理解したヘブンは、「キャンプみたいだ」と喜ぶ、という話である。

トキにとって初めてのビール。ヘブンにとって初めての蚊帳。共通のことばを持たぬ人間同士が、なんとかわかり合おうと、お互いに、絵で教え合う。

お互いの世界が、ほんの少し、ほどける。めんどくさくて、滑稽で、でも愛おしい。

駆け出しのころ、毎晩教室で使う絵を描いたことに重なった。中国の日本語学校で、こたつの絵を見せたなぁ。学校に行って、絵カードの束を掘れば、きっとあるはずだけど、夜のうちに準備しておきたかった。

この中は温かいです。テーブルの上にはみかんがあります。こたつに入りながら、かぞくとみかんを食べます。あまくて、おいしいです。そして、しあわせです。

こんな風に説明しながら、絵を見せる。へたくそな絵に、学生がげらげら笑う。「先生、ちょっと……」「先生は絵があまり……」という学生に「ちょっと」の使い方も、ネガティブなことは最後まで言わないのも、上手じゃないかと苦笑いした。

生成AIでイラストを生成しながら、そんなことをぼんやりと思い出す。

ことばで伝わらぬなにかを、ビジュアルでどうにか、伝えようとする。

生成AI時代になっても、我々日本語教師は、どんなものでも使って、絵を描き続けるのだ。なんとか、伝わり合おうとして。

参考資料

文化庁著作権課「令和5年度 著作権セミナー A I と著作権」(令和5年6月)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/pdf/93903601_01.pdf

文化審議会著作権分科会法制度小委員会「AI と著作権に関する考え方について」(令和6年3月 15 日)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/94037901_01.pdf?utm_source=chatgpt.com

文化庁著作権課「AIと著作権に関する チェックリスト&ガイダンス」(令和6年7月31日)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/pdf/94097701_01.pdf

石原えつこ

武蔵野大学グローバル学部 グローバルコミュニケーション学科非常勤講師。静岡日本語教育センター理事。戸田アカデミー講師・主任メンター。シンガポール日本語教師の会理事その他いろいろ。中国杭州の桜花日本語学校で3年、シンガポールのシンガポール国立大学等で15年日本語教育に携わる。息子の難病・障害を機に本帰国し入院・通院・療育中心の生活に突入も、現在は少しずつ自分のキャリアも再開。ビジネス日本語を教えることになり、ビジネスってなんだと悩んだ末、ビジネスを始めてみることに。現在、英語、日本語のプライベートレッスンを商品化している。推しはヘラルボニー。「異彩を放て」ということばの力強さ、新しい未来への予感に祈りを託している。