
前回は学習者の回答から語彙を広げていく例を紹介しました。とにかく新出語を覚え、覚えたら使う練習をする、という流れもよいですが、やりとりの中で自分に必要な語を習得していくというのも一つの方法です。今回は、毎年恒例の「今年の漢字」をもとにして語彙を広げていく授業例をご紹介します。
世相を表す「今年の漢字」―中上級編―
公益財団法人 日本漢字能力検定協会が毎年年末に発表している「今年の漢字」。京都の清水寺で巨大な和紙にその年の世相を表す一文字が書かれる光景も年末恒例となりました。2025年は、熊による人身被害が過去最多になったことから「熊」という漢字が選ばれましたね。
中上級クラスの場合、最初に①「今年の漢字」というイベントを知っているか、②今年(または去年)どんな漢字が選ばれたか知っているか、③②で選ばれた漢字は何と読むか、④どうしてその漢字が選ばれたと思うか、等の問いを投げかけます。あるいは、清水寺で揮毫された達筆の「今年の漢字」を見せ、何と書いてあるか考えてもらうところから始めてもよいでしょう。
そして「今年の漢字」について深掘りしていきます。たとえば「熊」の場合、熊被害の関連記事を読んでもいいですし、歴代の漢字についての調べ学習にしてもよいと思います。
関連記事を読む場合、こちらが適当な記事を選んで授業で読み合わせるのもよいのですが、学習者に「熊」に関するネットニュース等を自由に選んでもらってもよいと思います。たとえば、筆者は新聞を扱った授業(これもまた機会があったらお話したいと思います)を後者のかたちで行った際、「熊」に関する記事を発表した学習者が複数いました。それぞれ①記事の概要②記事を選んだきっかけ③まとめと感想をレポートしてもらったのですが、ある学習者は熊が増えた原因について、また他の学習者は熊被害への対策と課題についてというテーマで、同じ「熊」でも視点が違った発表となっていました。
クラスメートからは「今年キャンプに行ったとき熊に注意するように言われたのを思い出した」「日本で熊被害のニュースがあるとは知らなかった」、同じテーマを選んだ学習者からは「自分が理解したことより理解を深めることができた」等、感想もさまざまでした。「熊」にテーマを絞ったとしても、選ぶ記事はさまざまで、そこから広がることばもさまざまになることと思います。
歴代の漢字を深掘りする場合、まず下記のような表を見せ、どうしてこれらの漢字が選ばれたのか推測した後、担当を決め、歴代の「今年の漢字」について各自検索した結果をレポートしてもらいます(「金」はほぼオリンピックイヤーなので、筆者はそれ以外を発表してもらうようにしています)。
発表内容は①漢字の読み方②その漢字を使った熟語・例文③その漢字が選ばれた理由等です。レポート後の感想には、日本は災害が多い国であること、税金や金メダルへの関心が高いことなどが書かれています。漢字1文字から得られる情報は少なくないようです。
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2024金 |
2023税 |
2022戦 |
2021金 |
2020密 |
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2019令 |
2018災 |
2017北 |
2016金 |
2015安 |
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2014税 |
2013輪 |
2012金 |
2011絆 |
2010暑 |
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2009新 |
2008変 |
2007偽 |
2006命 |
2005愛 |
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2004災 |
2003虎 |
2002帰 |
2001戦 |
2000金 |
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1999来 |
1998毒 |
1997倒 |
1996食 |
1995震 |
参考:公益財団法人 日本漢字能力検定協会HP
1文字で振り返り、1文字で抱負を述べよう
そして、学習者自身の「今年の漢字」を考えてもらいます。1年(または1学期)を振り返った1文字でもよいですし、新年(または新学期)の抱負を表す1文字でもよいでしょう。もちろん裏表に「行く年(学期)」「来る年(学期)」の漢字をそれぞれ1文字ずつ書いて発表してもらってもよいと思います。年末年始には「あなたの1年を漢字1文字で表してください」といった街頭インタビューを扱ったニュースが放送されますので、それを例として提示するのもよいでしょう。
たとえば、以前筆者のクラスで出た「今年の漢字」は下記の通りです。学習者の新年の抱負を書いてもらいました。一部をご紹介します。一つの漢字でも音読みと訓読み、熟語も使っていいと言ったところ、果敢に挑戦してくれました。
「挑」…卒業までにいろいろ挑戦したい。まずは毎日朝ごはんを食べることから挑戦したい!
「決」…今まで日本に来ることだけを考えていた。今年は帰国し、進路を決める年にする。
「金」…これまで親のお金で勉強して来た。今度はバイトをして自分のお金で勉強を続けたい。金(gold)のようにキラキラした生活にしたい。
「移」…日本に移住したい。それから体重は推移するが、ダイエットもがんばりたい。
「得」…今年は友達などいろいろなものを得てきた。得てきたものを生かして自分が納得できる一年にしたい。
初級の場合
初級の場合、「今年の漢字」を調べたり記事を読んだりすることは難しいですが、それでも「今年の漢字」から語彙を広げる授業を展開することはできます。
まず、「今年の漢字」を揮毫している清水寺の写真を見せ、ここはどこか、何をしているかを話します。京都は学習者にとってもなじみのある観光地ですので、清水寺を知っている、行ったことがあるという学習者もいるかもしれません。そこから話を広げ、学習者の「今年の漢字」を考えてもらいます。
いきなり考えるのが難しい場合、下記のような例を見せると、漢字は難しくても初級の語彙ですのでイメージしやすいと思います。
①嬉 ②悲 ③楽 ④貧 ⑤金 ⑥忙 ⑦速 ⑧遅 ⑨寝 ⑩学 ⑪変 ⑫苦 ⑬新
漢字がわかるようであれば、音読み訓読み、その漢字を使った熟語などを確認してイメージを膨らませます。「今年の抱負」も同様です。こちらが提示した漢字以外でも、何か言いたいことがあったら、適当な漢字を学習者と一緒に考えましょう。そして、ホワイトボードや紙に大きく書いて発表してもらいます。難しい漢字も、「自分の漢字」として記憶に残ることと思います。
執筆:望月雅美
さまざまな日本語教育機関でこれまで8~88歳の日本語クラスを担当。現在、埼玉大学日本語教育センター非常勤講師兼諸々。著書に『日本語教師の7つ道具シリーズ1授業の作り方Q&A78編』(大森雅美名義、共著)『どう教える?日本語教育「読解・会話・作文・聴解」の授業』(共にアルク)などがある。音楽と笑いと自然を愛する3児の母。







