
日本政府は2026年1月23日に、外国人政策についての関係閣僚会議を開き、「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」を取りまとめました。以降、政府は矢継ぎ早にさまざまな政策を実行に移しています。具体的には、在留資格ごとに必要とされる条件が厳しくなっていますが、その際に日本語力が条件の一つとして利用されるようになってきています。
以前の総合的対応策の基本姿勢
関係閣僚会議の名称に「秩序ある」とありますが、実は、この関係閣僚会議は平成30年度から令和7年度まで、継続的に開催されていました。その際の名称は「外国人の受入れ・共生のための総合的対応策」でした。
令和8年度から対応策の名称に「秩序ある」という一言が加わり、「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」となりました。
令和7年度までの「外国人の受入れ・共生のための総合的対応策」は、どのようなものだったのでしょうか。以下の令和7年度の概要では、「安全・安心」「共生社会」「外国人の就労支援」といった面が強く打ち出されていることがわかります。
基本的な考え方:
日本人と外国人が互いに尊重し、安全・安心に暮らせる共生社会の実現を目指し、外国人がキャリアアップしつつ国内で就労して活躍できるようにすることなどにより、日本が魅力ある働き先として選ばれる国になるような環境を整備していく。
主な施策:
1、円滑なコミュニケーションと社会参加のための日本語教育等の取組
3、ライフステージ・ライフサイクルに応じた支援
4、外国人材の円滑かつ適正な受入れ
5、共生社会の基盤整備に向けた取組
大きく変わった令和8年度の総合的対応策
次に令和8年度の「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」を見てみます。ここでは、「不安・不公平感」に対し「法やルールの逸脱」には「公正・厳正な対処」と言った面が強く打ち出され、それまでの対応策から大きく性格が変わったことがわかります。
基本的な考え方:
・一部の外国人による、我が国の法やルールを逸脱する行為・制度の不適正利用について、国民が感じている不安や不公平感に対処する必要
・入国前の日本語教育及び社会規範等の理解促進、法やルールを逸脱する行為に対する公正・厳正な対処、事実・実態を把握した上での制度適正化、正確かつ十分な情報公開、関係機関間の情報共有・相互連携といった取組により、安全・安心な社会を実現
・その上で、我が国の法やルールの中で、国民と外国人の双方が安全・安心に生活し、共に繁栄する社会の実現を目指す必要
「厳格化」の背景には、外国人材の受入れに関して、政府の明確な方針転換があります。
日本語力が厳格化の条件に
在留資格ごとに具体的に「厳格化」が打ち出されてきています。ここでは、その中で日本語力に関係するところをまとめておきます。在留資格の脇にある人数は、2025年12月末現在の、在留資格別の人数です。
・在留資格「永住者」:約95万人
原則10年以上の居住(現状5年)、生活できる資産または技能を持っている、法律違反がないなどが条件に。2026年5月の入管法改正で永住許可申請の手数料は1万円から30万円に引き上げ。2027年度から永住許可の要件に一定の日本語能力を追加する方針を進めている。
・在留資格「技術・人文知識・国際業務」:約48万人
日本語を使う業務(通訳、翻訳、貿易事務、ホテルフロントなど)に就く場合は、CEFRのB2(日本語能力試験N2)相当の言語能力を証明する資料が追加提出書類として必要に(現状は、日本語能力を証明する資料の提出は不要)。
・在留資格「留学」:約46万人
資格外活動(アルバイト)の週28時間以上の規制の強化。日本語教育機関に対し、定期的に留学生の資格外活動状況(活動先、内容、活動時間など)を確認し、問題がある場合は出入国在留管理官署への報告を義務付け。また、これまでは150時間以上の学習歴で認められていたCEFR A1相当以上の能力立証について、試験の証明書または面接による確認を必須とする。
・在留資格「経営・管理」:約4.6万人
取得要件の資本金を500万円以上から3000万円以上へ引き上げ。経営者は経営・管理経験3年以上または経営などの分野の修士以上の学位、1人以上の常勤職員の雇用義務、申請者または常勤職員のどちらかがCEFR B2(日本語能力試験N2)相当の日本語能力が必要、新規事業計画において税理士などの専門家の確認が必要。
このように、以前は「円滑なコミュニケーションと社会参加のための日本語教育」であったものが、「法やルールの中で、国民と外国人の双方が安全・安心に生活」するための、各種の「制度適正化」の一環として日本語力が用いられるようになってきています。
その一方、自民党の外国人政策本部は、外国人政策についての提言案をまとめました。ここでは、外国人児童らを対象にした「初期日本語指導教室(プレクラス・プレスクール)」のモデルの全国展開や、入国前に日本の制度や慣習などを学べる「日本語・生活学習プログラム(仮称)」の創設などを求めています。
在留管理を厳格化する一方、必要な日本語支援は拡充するといった方向性ですが、将来的にはこれらのプログラムも在留管理へとつながっていく可能性があるように思われます。
参考:
外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策(令和7年度改訂)(概要)
https://www.moj.go.jp/isa/support/coexistence/04_00094.html
「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」(令和8年1月23日外国人の受入れ・秩序ある共生社会実現に関する関係閣僚会議決定)
https://www.cas.go.jp/jp/seisakukaigi/gaikokujinzai/pdf/kettei_sougoutekitaiousaku_gaiyo.pdf
執筆:新城宏治
株式会社エンガワ代表取締役。NPO法人国際教育振興協会 日本語教師ネットワーク機構代表理事。高崎健康福祉大学非常勤講師。日本語教育に関する情報発信、日本語教材やコンテンツの開発・編集制作などを通して、日本語を含めた日本の魅力を世界に伝えたいと思っている。



