
「紙とデジタルとどちらのほうが学習効果が高いのか」というテーマについては各国で多くの研究が行われています。記憶力や読解力への優位性についてはそちらの専門的な研究にお任せするとして、ここでは紙とデジタルどちらの良さも生かした授業につなげるために、筆者が授業の中で感じたデジタルを使うことのメリットや注意点をお話していきたいと思います。(望月雅美)
進むデジタル化・ペーパーレス化
紙の辞書と教科書を数冊、教案ノートやファイル、学習者の添削物や絵カードなどの教材類……「日本語教師のカバンは重い」と言われたのは昔の話でしょうか。カバンに詰めていた上記のものはすべてパソコンにおさまり、授業はパソコン1台持てばOKという人もいるでしょう。それどころか、クラウドやeラーニングのプラットホーム(LMS)にデータをおさめて現地のパソコンを使えば、パソコンさえも持たずに通勤することが可能な昨今です。
教科書から電子書籍へ、ホワイトボードから電子黒板やプロジェクターへ移行している学習機関もあります。学習者側もスマホを持っていない学習者はまず見なくなりましたし、ノートの代わりにパッドに書き込む姿も当たり前になってきました。教育機関全体でペーパーレス化を推進しているところもあります。
皆さんの中には、こうしたデジタル化・ペーパーレス化の最先端の波に乗って授業に臨んでいる人もいるでしょう。反対に、その波に抗いたいという人もいるかもしれません。いずれにしても、まず見るべきは学習者です。日本語学習へのメリット・デメリットを考えながら臨機応変に対応していきたいものです。環境問題やコストの問題などはいったん置いておいて、ここでは授業でのメリット・デメリットを考えていきましょう。
ペーパーレス授業のメリット(1)配布物
これまでコピーして配布していたプリント類は、データでやりとりできるようになりました。クラスで学習者とのやりとりを保存しておけるプラットホームがあれば、そこにアップするだけで配布物を共有することができます。緊急連絡先や授業の注意事項が書いてあるオリエンテーション資料や、何度も見返してほしい語彙リストなどはそこに入れておけばなくす心配がありませんし、配られていないといったトラブルを避けることができます。また、アンケート調査なども紙で配るよりも簡単にその場で集計し、共有することができます。
ペーパーレス授業のメリット(2)提示する教具類―絵カード・板書―
絵カードや動詞カードなど、今までカードで提示していたものもデジタル版を使用してプロジェクターなどで映し出せば、カードが見えにくいという問題も解消できますし、テンポよく提示することができるでしょう。ホワイトボードにスライドを映し出せば、カードと違ってそこにいろいろ書き込むことができます。たとえば50音表を映し出しておけば、活用練習に便利です。辞書形ならウ段に注目するようにマーカーで書き込みながら導入し、慣れてきたら書き込みを消して再度練習する、ということも簡単にできます。
ただ、ホワイトボードに映し出すと、次のスライドを映し出すときに全て消さなければならなくなります。どのスライドに何を書き込み、どのタイミングで消すのか、スライドにかぶらない部分(ずっと残しておける部分)に何を書くのか。スライドを使う際の板書計画も必要です。
ペーパーレス授業のメリット(3)学習者とのやりとり・提出物
ペーパーレスの宿題としては、文書だけでなく音声を送受信するということができます。
筆者はよくシャドーイングの課題を出して音声のやりとりをします。学習者は自分のペースで例を聞きながら課題文を練習し、読めるようになったら録音して教師に送ります。学習者の音声に対するフィードバックも教師の音声で送ります。イントネーションの間違いなどは紙で伝えるよりも実際に良い例悪い例を発音して聞かせた方が理解しやすいようです。漢字を読む練習として、漢字かな交じり文を読む宿題というのも良いと思います。
文書を送ってもらう場合は提出する際のファイル形式を指示しておくと、添削がしやすくなります(添削についてはまた別の機会に書きたいと思います)。
世界中から24時間送信可能ですので、提出期限は「〇月×日(〇曜日)日本時間△時まで」というように時間まで指示します。
ペーパーレス授業の注意点
教師が板書の代わりにスライドや動画を使って教える場合、その見せかたに気をつけましょう。スライドや動画はイメージしやすく何度も見返しやすいのですが、見ているだけ、聞いているだけだと頭に入らないものです。パッパッと見せてスライドを読み上げるだけでなく、その間の学習者の行動を常に意識しましょう。スライドを見せる間に、学習者がその意味や答えを考える時間、手で書く、口に出す、内容について教師とやり取りをするという工程は組み込まれているでしょうか。授業準備がスライドや動画作りで終わらないように、学習者に何をしてもらう時間なのか考えて授業案を作っていきましょう。
また、電子書籍を使って学習する場合、パラパラとめくることができないので全体を俯瞰しにくい、メモを取りにくい等のデメリットがあります。作文などを手書きではなく打ち出してもらう場合、コピペしやすい、間違えた経緯がわかりにくいという問題があります。
どちらの良さも活かしてみよう
では、学習者はどのように考えているのでしょうか。以前「電子書籍と紙の本とどちらが良いか」というテーマでディスカッションを行ったことがあります。その結果、電子書籍は1台で無限に読める、軽い、読みながら検索しやすい……という意見に対し、紙の書籍は他の資料をはさんでおける、紙のにおいが好き、パラパラめくるとバイブスが上がる等、双方に対してさまざまな意見が出ました。ある学習者に、電子版の教科書だとノートがとりにくいのではないかという理由で紙の教科書を薦めたところ、電子版の教科書に板書の写真を貼り付け、細かく色分けして自分なりの「教科書ノート」を完成させていて、一概に言えないものだと感心したことがあります。
ペーパーか、ペーパーレスか。どちらかが絶対に良いというものではなく、私たちはどちらも選ぶことができます。選択の醍醐味を学習者と味わっていきましょう。
執筆:望月雅美
さまざまな日本語教育機関でこれまで8~88歳の日本語クラスを担当。現在、埼玉大学日本語教育センター非常勤講師兼諸々。著書に『日本語教師の7つ道具シリーズ1授業の作り方Q&A78編』(大森雅美名義、共著)『どう教える?日本語教育「読解・会話・作文・聴解」の授業』(共にアルク)などがある。音楽と笑いと自然を愛する3児の母。





