
日本語教師が教える場は日本国内に限りません。むしろ、海外のほうが学習者数は多く、世界各地に日本語を学びたいと思っている、あるいは、学んでいる学習者がいます。日本語教師になったからには、日本を飛び出して海外で教えてみたいという希望を持っている人も多いでしょう。今回は、海外で日本語教師として働くためには、どんなことが必要で、どのような準備をしておくとよいのか、実際にどのような国・地域、教育機関などがあるのか、見ていきましょう。
海外で日本語を教えるために必要なもの
海外で日本語教師として教えるために必要なものを見る前に、まず、基本情報として、海外の日本語学習者はどれぐらいいるのか、押さえておきましょう。
海外の日本語学習者数は、独立行政法人国際交流基金が3年ごとに「海外日本語教育機関調査」という調査をしています。直近2024年度の結果(概要版)を見ると、その数は初めて400万人を超え、143の国・地域の日本語教育機関で日本語教育が行われていることがわかりました。教師数、機関数も増えており、コロナ禍を経た後も、海外での日本語教育の需要は、引き続き、高まっていることを示しているといえるでしょう。
では、具体的に海外で日本語を教えるためにはどのようなことが必要なのか、見ていきましょう。
登録日本語教員の資格
日本語教師の仕事は国家資格化され、2024年に「登録日本語教員」という資格ができました。日本国内の「認定日本語教育機関」で教えるためには、この資格が必要となりました。海外で教える場合、登録日本語教員資格は必須ではありません。求人サイトの応募条件を見ると「日本語教育能力検定試験合格」「日本語教師養成講座(420時間など)修了」「大学・大学院で主専攻・副専攻」などが挙げられているところも多く見られます。
しかし、国が認める資格を持っているということは、応募の際、強いアピール点になります。今後、登録日本語教員資格を持つ応募者が増えてくることを考えると取得しておくことを勧めます。
就労ビザ
海外で合法的に働くためには「就労ビザ」が必要です。国・地域、教育機関によって、就労ビザの取得のしやすさや手続き、条件などは異なります。基本的には、相手国の日本語教育機関からの内定を得ることが第一歩となります。
応募の際、学歴や職歴、年収証明などの書類を求められる場合も多いでしょう。採用側はそうした書類をもとに就労ビザを得る条件を満たしているかを含めて採用の可否を判断し、OKとなったら内定を出します。基本的には内定が出たのであれば就労ビザ取得ができるということになり、申請手続きが始まります。
申請は、採用側が代行することもありますが、自分で進める場合、国・地域、条件によって手続き方法が異なりますから、不明点は採用側と相談して進めるのが効率的です。ビザ取得まで、時間がかかることがあるので、内定の有無にかかわらず、取り寄せることができる書類はあらかじめ準備しておくとよいでしょう。
語学力はどれぐらい必要?
募集要項に、求められる語学力が明記されている場合は、そのレベルの語学力は必要でしょう。海外の日本語教育機関内には日本人や日本語ができるスタッフがいることもありますが、現地スタッフとのコミュニケーションや生活する上で、相手国の言語ができるに越したことはありません。現地の言語能力を求められない場合もありますが、学習者も自分たちの国の言葉を知っている教師には親近感を覚えるでしょう。相手国の公用語を学ぶ、もしくは英語力をできるだけ上げておきましょう。
併せて、応募条件に多く見られるのがPCスキルです。最近は、スマートフォンがあれば多くのことができるので、パソコンを使わないという人もいるかもしれませんが、基本的なパソコンの使い方は覚えておくとよいでしょう。オンラインで遠隔地とつないでの授業やミーティングをするといったことも考えられます。
海外で日本語教師として働く場
海外で、日本語教師として働く場は、どのようなところがあるのでしょうか。冒頭で国際交流基金の「海外日本語教育機関調査」を紹介しましたが、一つは、その国際交流基金が専門家を派遣している機関、例えば、大学などの高等教育機関、各国教育省、初・中等教育機関などが挙げられます。他に、現地の日本語学校、企業などもあります。ボランティアとして活動する方法もあります。以下、詳しくみてみましょう。
日本語学校
日本にある日本語学校の海外校や提携校、あるいは、現地の教育機関が設立・運営している学校、日本人が現地で設立した学校などがあります。提供する日本語教育の内容は、会話中心の授業を行うもの、文法をしっかり教えるもの、日本で働く人材育成を目的とするものなど、機関によってさまざまです。学校のサイトや募集要項に、何を主に教える教師を求めているのか、明記されていることが多いので確認しましょう。日本語学校の求人が比較的、多いのは中国、韓国、東南アジアの国々です。
小・中学校、高校など
東アジア、東南アジア、オセアニアの国々では、初等・中等教育機関(小・中学校、高校)において日本語教育を導入しているところが多く見られます。国際交流基金の2024年度海外日本語教育機関調査においても、東南アジア全体の学習者の7割近くが初等・中等教育機関で学んでいます。特に多いのはインドネシア、タイなどです。これらの国で教えたい、子どもに教えたいと考える人は、こういった国の求人情報を調べてみるとよいでしょう。なお、国・地域によっては現地国の教員資格が必要な場合があります。
大学・高等教育機関
大学・高等教育機関の求人は東アジア、東南アジアなどで多く見られます。日本の大学の海外提携校、公的機関(国際交流基金など)の派遣先などのほか、日本語教師養成課程を持つ大学の海外研修先ということもあります。地域・国にもよりますが、学歴として四年制大学卒もしくは大学院卒の条件や、現地国の教員資格が求められることがあります。
企業
現地に法人を設立した日系企業が現地の人材育成のために日本語教育を行うことがあります。修了後、現地企業に勤務するケースや来日して日本の会社で働くケースもあります。経済的な連携を深めているミャンマー、スリランカ、インドなど、東南アジア、南アジアの国々の求人が比較的、多く見られます。ビジネス日本語に加え、ビジネスマナーの授業を担当することもあります。
また、企業ではありませんが、EPAに基づいて日本に派遣される看護師候補者、介護福祉士候補者に対して渡日前教育として日本語を教える方法があります。国際交流基金が実施する事業です。 https://www.jpf.go.jp/j/about/recruit/epa_2026.html
ボランティア活動・NPO
海外の日本語教育機関で教える経験をしてみたいという場合、ワーキングホリデービザやインターンシップ制度などを利用して教える方法があります。有給の場合もありますが、ビザとの関係で、無報酬のことも多いので、条件などをよく調べることが必要です。オーストラリアなどでは、ネイティブの日本語教師のアシスタントとして活動するプログラムなどがあります。
また、JICA(独立行政法人国際協力機構)による派遣も「日本語教育ボランティア」と呼ばれます。日本政府のODA予算により、開発途上国からの要請に従って派遣されるもので、保健衛生や農林水産などの分野と並び、教育の一部として日本語教育があります。派遣者には派遣前の訓練期間中の手当、現地での生活費などが支給されます。
https://www.jica.go.jp/volunteer/application/long/job_info/japanese/
海外で働く日本語教師の声
日本語教師として海外で働いた経験のある人に、海外での仕事を見つけるコツや心構えなどを聞きました。
Oさんは2004年に日本語教師養成講座修了後、海外で教えたいと求人情報サイトを見て、未経験OKと出ている機関に履歴書を送るところから就職活動を始めたそうです。その中から中国の学校から連絡があり面接後、その学校ではなく、インドネシアで教えるのはどうかという打診を受けました。大学時代の先生から、何か思い切ったことをするときは「片目をつぶって飛び込め」という言葉を聞いたことを思い出し、Oさんはインドネシアに渡ることを決意し、3年間、教えたそうです。その後、やはり中国でも教えたいと履歴書を送ったところ、採用され、その後、学校を移りながら13年間、海外で教えたということでした。
Kさんが日本語教師になったのは1990年代。大学では日本文学を学び、卒業後は一般企業に就職。激務で年齢を重ねたときに体がもたなくなると思い、他の仕事を探していた際に日本語教師を知り、養成講座に通い、修了後、専任講師になりました。海外に出たのは定年後。それまで受け入れる側として学習者と関わってきましたが、外に出て逆の立場になる経験をしてみたい、海外に長く住んでみたいと思い、JICAのシニアボランティア日本語教師として南米で教えることになりました。留学生や外資系企業で働くビジネスパーソンなど、さまざまな人を教える経験を重ねて海外へ渡ったKさんは、「日本語を学んでいるのは留学生だけではない。視野を広く持つことが大事」といい、教授法や教科書など、勉強し続けることが必要だといいます。そして、海外で教えるにあたっては健康第一というアドバイスもしてくれました。
二人の話からは、海外で教えようと思った場合、事前に情報を調べたり、語学を学ぶなどの準備も必要ですが、道を切り開くには、ある程度の思い切って飛び込んでみることも必要だということが伝わってきます。ゼロからイチにするのは大変ですが、イチにした後は、人の紹介や思わぬ話から次の道が開けることも多いと思われました。
まとめ
インターネットには、さまざまな国・地域の日本語教師採用情報を掲載しているサイトがあります。そういったサイトをこまめにチェックして、応募したい、あるいは応募できそうな募集を見たら、まずは履歴書を送ってみることから道が開けることもあるでしょう。
さまざまな日本語学習者と出会える確率は、国内よりも、むしろ海外のほうが高いかもしれません。海外で日本語を教えることを通して、思いもよらぬ展開につながることもあるでしょう。ぜひ、その展開を楽しむといった心意気で挑戦してみましょう。
【参考】
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