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日本語ジャーナル:日本語を「知る」「教える」

北海道の地域日本語教育の現在地から考えるこれからー第5回北海道・地域日本語教育シンポジウム開催ー

2026年1月24日にオンラインで開催される北海道・地域日本語教育シンポジウム(主催:北海道大学,SHAKE★HOKKAIDO)。今回で5周年を迎える本シンポジウムでは、北海道の各地域で日本語教育に携わる市民団体、自治体に加え、日本語学校の関係者が登壇します。企画を行った平田未季さんへのインタビューをお届けする第2回目です。(深江新太郎/NPO多文化共生プロジェクト)

日本語学校は卒業後の姿を描けているか

前回は、北海道の日本語教育を考えていくなかで、市民団体の活動、地方公共団体の施策に焦点を当てました。今回は、日本語学校についてお話をうかがいたいと思います。日本語学校の関係者に登壇してもらうようになった経緯を教えてください。

本当は、「日本語学校を始めました」と「日本語学校をやめました」というテーマで、新たに学校を設置した企業団体と学校事業をやめた企業団体に話を聞きたかったんですよ。でも、日本語学校をやめた方に声をかけても、だれも登壇してくれなくて(笑)なので、日本語学校を出て新たに起業した方に登壇していただくことにしました。

―そうなのですね。では、まずプログラムの「日本語学校の今 日本語学校始めます」の方から。

登壇してもらうのは、生活協同組合コープさっぽろです。教育系の企業ではないですが、経営基盤が安定している企業です。北海道は、このように、経営基盤が安定した他業種の企業が運営する日本語学校が急速に増えています。この流れは、日本語学校の認定制度が始まってより強くなっているように感じます。認定の審査を受ける際に、経営母体も審査基準に含まれているからです。だから経営基盤が脆弱な学校を安定している企業が買収するというケースも起きています。

―教育系ではない企業が参入する理由は、人材の確保でしょうか。

そういった側面もあると思います。将来的にその業界で働く人材を育成しようという日本語学校もあれば、在籍中にできるだけ当該企業でアルバイトをしてもらおうとする日本語学校もあります。 

―日本語学校を卒業したら、どうなるのでしょうか。

その点が、北海道の日本語学校を考える上で、とても大切なところだと思います。あまり大きな声で言えないのですが(笑)北海道の日本語学校の場合、卒業生の90%以上が道外、特に東京や大阪に行ってしまいます。去年、沖縄に視察に行ったとき、日本語学校の状況が北海道とよく似ていて驚きました。

今、北海道も沖縄も、日本語学校にはネパールの学生が本当に多いのですが、彼らになぜ北海道や沖縄に来たかを聞くと、多くが、本当は東京や大阪に行きたかったけれどビザが厳しかったからここに来たと言うんです。つまり、地方の日本語学校の方がビザが取りやすいのだと思います。だから、卒業したらすぐに北海道や沖縄を出て行ってしまうんです。つまり、完全な通過点になっているんです。 

若者がとどまる北海道を目指して

―なるほど、留学生を入学はさせ、在籍期間中のアルバイトは保証されているけれど、卒業後にその学生がどのような姿になっているか描けていない日本語学校が多いということですね。

かつての日本語学校では、多くの学生が進学を志してたと思います。一方、今は、学校を卒業する時に学生がどのような人材になっているのか、学生にどのような出口があるのか、そのイメージが見えにくい学校もあります。もちろん、企業が経営する日本語学校の中には、外食や運転手など、特定の業種で活躍するという出口を明確に描いている学校もあります。それは素晴らしいことですが、先に述べた通り、多くの学生は北海道にとどまりません。

今回「日本語学校の今 日本語学校を出ました」 で登壇してくれる方は、もともと日本語学校で働いていて、学生の出口の部分に取り組んでいきたいという思いを持っていらっしゃいました。「若者がとどまる北海道をめざして」というサブタイトルに強く現れているのですが、学生たち一人一人が、日本語学校での経験を生かして、地域社会で自己実現ができるようになり高度な人材として活躍していくこと、その結果として地域も活性化していくことを目指していたそうです。

ですが、今の日本語学校という枠組みではそれができないと感じ、自ら起業したそうです。どのような点に限界を感じ、今どのような取り組みをされているのか、とても気になっています

―日本語学校が、学生たち一人一人の社会での活躍をどのように描けているか、が今、問われているのですね。さて、シンポジウムでは、前回の地域の日本語教育と、今回の日本語学校の日本語教育を受けての総括が私の役目となるのですが、期待していることはありますか。

今述べた日本語学校の現状のどこまでが北海道固有のことで、どこが全国共通の課題なのか。より広い視点をお持ちの深江さんに、日本全体で見たときに北海道の事例はどのように位置づけられるのか、ぜひお聞きしたいです。 

期待することを聞かなければよかったと思いました(笑)

日本語教育に対する恐れを取り戻すために

―さて当日は総括後に、北海道大学アイヌ・先住民研究センターの北原モコットゥナ先生がお話を行う流れになっていますね。この点について、最後に教えてください。

今、日本語教育の推進が叫ばれる中、地域では、日本語教育は善なるもので良いものだという雰囲気があるように感じます。言い換えれば、日本語教育は地域の共生において良いものだということが疑いようのない前提となっているということです。

もちろん、現在の日本語教室の多くは、いわゆる学校型ではありません。「正しい日本語」を教えるだけではなく、学習者が地域社会でできることを増やし、彼らの生活を豊かにしていこうという理念があります。だとしても、特に北海道で日本語を教えるならば、先住民の視点は欠かせません。北海道の日本語教育は、先住民の方々への国語教育から始まりました。その時にも、国語教育を通じて、彼らの生活を豊かにしようという理念が叫ばれていたのです。

この話は、現在の地域日本語教育推進の流れの中で語られることはほぼありません。日本語教育に、自治体、企業など様々なアクターが関わるようになった今こそ、日本語教育を推進するとはどういうことなのか、先住民の方と共に考えてみたいと思います。 

―なるほど、私も勉強します。シンポジウム当日が楽しみです。

第5回北海道・地域日本語教育シンポジウム「北海道の地域日本語教育の現在地」

詳細:https://shakehokkaido.studio.site/Y1xPp5V0/26symposium

平田未季(北海道大学高等教育推進機構・准教授)

協力隊でシリア・イエメンで日本語教育にかかわったのち、秋田大学を経て現職。大学で日本語教育を行うかたわら、SHAKE★HOKKAIDOを主宰し、北海道で日本語学習支援および共生支援に関わる人たちをゆるやかにつなぐ活動を行うとともに、演劇の手法を用いた共生のまちづくりワークショップに取り組む

深江新太郎(NPO多文化共生プロジェクト代表)

「在住外国人が自分らしく生活できるような小さな支援を行う」をミッションとしたNPO多文化共生プロジェクト代表。ほかに福岡県と福岡市が取り組む「地域日本語教育の総合的な体制づくり推進事業」のアドバイザー、コーディネータ―。文部科学省委嘱・地域日本語教育アドバイザーなど。著書に『生活者としての外国人向け 私らしく暮らすための日本語ワークブック』(アルク)がある。