
前回は学習者の多様化にまつわる問題についてお話しました。話を授業内容に戻しましょう。今回は前々回の漢字授業に続いて読み書きの1つ、読解授業についてお話していきたいと思います。読解授業というと「長文を精読する」と捉えがちですが、それに留まらない、多様な読む、について考えてみましょう。
「読解ができる」とは
「日本語教育の参照枠」では、以下の3つを言語教育間の柱として挙げています。
1.学習者を社会的存在として捉える。
2.言語を使って「できること」に注目する。
3.多様な日本語使用を尊重する。
2については「言語知識を持っていることよりも、その知識を持って何ができるかに注目する」とあります*1。では、何ができれば「読解ができる」ということになるのでしょう。「日本語教育の参照枠」の言語能力記述文(活動Can do)では、下記のようなカテゴリーのCan doがレベル別に挙げられています。
包括的な読解
通信文を読むこと
世情を把握するために読むこと
情報や議論を読むこと
説明書を読むこと
さまざまな「読む」がありますが、どれも日常で行っていることです。毎朝の自分の行動を想像してみてください。最近朝の満員電車の中で新聞を読んでいる人の姿はほとんど見られなくなりました。とは言え、私たちは朝起きて職場に向かうまでの間、何らかの「読む」行為を行っていると思います。
スマホでニュースや小説を読む人もいるでしょうし、メールやSNSを確認する人もいるでしょう。電車が駅で止まれば目的地かどうか駅名を確認するでしょうし、予定通りに来なければ電光掲示板で遅延情報を確認します。ほかにも、看板や広告等、道すがら目から何らかの情報を得ているのではないでしょうか。
ひと言も話さず、何も書かずに職場までたどり着くことはできますが、何のインプットもなく目的地に向かうことは難しいはずです。このように、勉強や読書に限らず「読む」行為は生活の中にあふれています。
さて、皆さんの関わる学習者は皆さんと同じように情報を得ることができているでしょうか。学習者は何を読み、どのような情報を得たいと思っているのでしょう。そこから、学習者の学習目標を考えてみましょう。読解授業を始める前に、普段何を好んで読んでいるのか、どんなものを読めるようになりたいのか学習者に考えて発表してもらうのも良いと思います。
プロジェクターや動画、LMSの活用
ぺーパ―レス授業のメリットとして、プロジェクターの活用法について以前お話ししました。紙の読解教材を使う場合でも、ホワイトボードに本文のスライドを映し出しておくと便利です。大教室の場合、今どこを読んでいるか教師の教科書を差し示すよりも大画面で示した方が見やすいですし、漢字の読み方等を書き込むこともできます。段落を色分けて見せたり、指示詞が指している内容などは線を引いて示したりすることができます。一文が長い場合、どこまでが何を修飾しているのか区切って示したりする場合も、いちいち本文を板書する必要がないので、効率的です。
また、最近では、さまざまな動画が簡単に視聴できるようになりました。それらを読解に活用するのも1つの方法です。たとえば、小説を扱った際は、読了後その小説のドラマ化されたものを見たり、いろいろな声優の読み聞かせを聞き比べたりしたこともありました。ニュース動画には文字起こし文がついている場合がありますので、そちらを読んでからニュースを見るという活動を行ったこともあります。いずれにしても、同じ題材を違う媒体で見聞きすることで、新鮮に、より深く学習できるように思います。(これらの活動を行う際は、著作権に問題がないかに注意して行ってください)
読める長文と読めない超短文、そして「打ち言葉」
文字→ことば→文→文章……少しずつ文章が伸びていき、段落が増え、難易度が上がっていきます。読めない長文を接続詞や指示詞に注目しながら少しずつ精読し、全体の流れを確認していくというこれまでの長文読解の授業に加え、最近では多読を扱う授業も増えてきました。多読というのは、文字通り、たくさんの読み物を読む授業です。学習者のレベルに合わせ、辞書を使わずに推測しながら読めるレベルの読み物をたくさん読むことによって、読解力を向上させます。
一方、長い文章だけでなく、意味が読み取りにくい短い一文というものもあります。
1)あの写真、撮らせてもらってもいいでしょうか。
2)私の一存では、ちょっと……。
1)でカメラを持つのは話し手と聞き手のどちらでしょうか。そして、これを言うのはどんな状況下でしょう。「あの」というのは何を指しているのでしょう。一文でいろいろな状況が考えられます。
2)の場合、何かを決めかねていること、それは自分だけでは決められないこと、決定権を持つ仲間がいることなどがこの一文からうかがえます。このような、文法的な難しさや慣用表現だけでなく、街中のキャッチコピーなど、短くて深読みできる一文を使って読み解いていくのも1つの読解と言えるでしょう。長文を読む前に、その文章の中の一文をピックアップして深読みすると、長文を読む前の動機付けにもなります。
また、短い文の難しさを感じるのが、SNS等でのやりとりです。日本語母語話者から送られてきたSNSのコメントについて、学習者からときどき質問を受けることがあります。短い文面の意図が読み取れない場合や、顔文字の意味などです。
平成30年国語分科会報告*2によると、携帯メールやSNSなど情報機器への文字入力による言葉は「打ち言葉」と呼ばれ、書き言葉であっても、くだけた話し言葉的な文体が用いられると報告されています。「日本語教育の参照枠」では「漢字に関する今後の検討課題(p.70)」として「打ち言葉」について記されています。「打ち言葉」は若者の話し言葉や流行語と同様に、いつでも誰に対しても共通して通じるものばかりではありませんが、今や重要なコミュニケーションツールの1つとなっています。読み書きの1つとして、この「打ち言葉」を授業にどう取り入れていくかも今後考えていく必要があるでしょう。
執筆:望月雅美
さまざまな日本語教育機関でこれまで8~88歳の日本語クラスを担当。現在、埼玉大学日本語教育センター非常勤講師兼諸々。著書に『日本語教師の7つ道具シリーズ1授業の作り方Q&A78編』(大森雅美名義、共著)『どう教える?日本語教育「読解・会話・作文・聴解」の授業』(共にアルク)などがある。音楽と笑いと自然を愛する3児の母。
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