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日本語ジャーナル:日本語を「知る」「教える」

令和7年度日本語教員試験を振り返る

令和7年度の日本語教員試験は、2025年11月2日(日)に全国8地域・10会場で行われました。また、実施に先立ち、文部科学省から出願状況が発表されました。試験の内容と合わせて、令和7年度の日本語教員試験を振り返ります。

試験の振り返り

午前中の基礎試験は、令和6年度に比べ、本来の趣旨である「日本語教育を行うため必要となる基礎的な知識及び技能を区分ごとに出題」に沿ったオーソドックスな問題になっていたと思います。加えて、留学生の資格外活動許可といった現実的な知識、ジグソー法やスキャフォールディングなどの教育実践に関わる問題、トランスランゲージや言語レパートリーといった比較的新しい分野についても出題されていました。

昼休憩を挟み、午後からは応用試験が行われました。令和6年度は、応用試験が聴解→読解の順番で行われましたが、令和7年度から順番が読解→聴解に変わりました。

応用試験(読解)は、タスク補助の言語指導、スキル習得論、クロンバックのα係数など、一般の参考書ではあまり出てこない用語も散見されましたが、そういった問題も問題文をよく読めば答えが導けるような出題になっていたと思います。応用試験は「教育実践と関連」させて「基礎的な知識及び技能を活用した問題解決能力を測定」する試験ですので、例え初見の用語があったとしても慌てないことが大切かと思います。また、複文化能力と仲介といった、今後の日本語教育において大切な概念について、日本語教育の参照枠と関連した出題があったことを記しておきます。

応用試験(聴解)は、日本語教育能力検定試験と異なり音声が全て1回しか読まれないので、集中力と判断力が必要な問題が多かったようです。学習者の誤用の箇所を聞き取るだけではなく、その誤用の種類原因などを瞬時に選択肢の中から選ぶ能力が必要になります。そういった意味でも、聴解問題への「慣れ」が必要かと思われます。また、必ずしも問題の難易度が易→難に並んでいるわけではないので、例え聞き取れない問題があったとしても、あまり気にせずに、すぐに頭を切り替えるのも重要なスキルかと思いました。

受験した感触としては、令和6年度と比べて基礎試験の難易度が下がり、応用試験の難易度は同じか、やや上がったかという印象ですが、どちらかと言うと、いずれも正常な難易度と問題内容になったと感じました。

養成機関ルートの出願者の増加

文部科学省から発表された令和7年度の日本語教員試験の出願状況は以下の通りです(令和6年度出願者数からの増減)。

【会場別】

北海道:323人(+82人)

東北:398人(+93人)

関東:8,138人(+1,642人)

中部:1,460人(+285人)

近畿:3,087人(+518人)

中四国:792人(+311人)

九州:1,097人(+78人)

沖縄:166人(+23人)

試験をすべて免除される者:2,852人(▲3,106人)

合計:18,313人(▲74人)

すべての会場で出願者が前回を上回っていることがわかります。その一方、「試験をすべて免除される者」が減少したことにより、合計人数はほぼ昨年並みとなりました。「試験をすべて免除される者」とは、経過措置の「Eルート」に該当する人たちのことです。基礎試験・応用試験が免除されますので、実質、試験会場で試験は受けない人たちです。

令和7年度の日本語教員試験は、試験をすべて免除される出願者が減少した一方、実際に試験を受ける出願者は3,000人以上増加しました。このため、出願時における審査・応募者への連絡の遅れ、関東での受験会場の増加などが発生しました。

【資格取得ルート別】

試験ルート:3,917人(▲216人)

養成機関ルート:2,465人(+2,465人) ※令和6年度は養成機関ルートの受験者は0人。

経過措置Cルート(現職者に限らず必須の50項目に対応した課程修了者):6,938人(+1,188人)

経過措置D-1ルート(現職者のうち必須の50項目対応前の課程修了者①):1,278人(▲296人)

経過措置D-2ルート(現職者のうち必須の50項目対応前の課程修了者②):592人(▲99人)

経過措置E-1ルート(現職者のうち民間試験に合格した者①):625人(▲603人)

経過措置E-2ルート(現職者のうち民間試験に合格した者②):2,227人(▲2,503人)

経過措置Fルート(上記以外の現職者):271人(▲10人)

合計:18,313人(▲74人)

これらの数字をもとに計算すると、

基礎試験と応用試験の対象者:試験ルート+Fルート=4,188人

応用試験のみの対象者:Cルート+Dルート=8,808人

実践研修の対象者:試験ルート3,917人の中で、基礎試験と応用試験に合格した人は実践研修の修了が必須です。

出願者数増減の背景と今後の展望

「試験をすべて免除される者」とは、具体的には以前に日本語教育能力検定試験に合格した人(Eルート)で、「登録日本語教員の経過措置に係る経験者講習」を修了した人を指します。対象者の多くは、令和6年度には経験者講習は未修了、令和7年度に経験者講習を修了した人ということになりますので、この人数は今後も年々減少していくと思われます。

必須の50項目対応前の日本語教育課程を修了した人(Dルート)で、「登録日本語教員の経過措置に係る経験者講習」を修了した人も減少しました。一方、必須の50項目対応に対応した教育課程を修了した人(Cルート)は増えましたが、この課程は徐々に登録日本語教員養成機関に移行、養成機関ルートに集約していくことになります。ただし、Cルート、Dルートはいずれも応用試験に合格しなければいけませんので、不合格だった人の再受験者の数、つまり応用試験の合格率も出願者数に影響してくると思われます。

養成機関ルートは令和6年度の段階では対象者がいませんでしたが、今回は2,465人の出願者がいました。今後発表されるこのグループの合格率は、登録日本語教員養成機関の課程内容と、応用試験の問題内容の整合性を測る目安にもなると思われます。

気になるのは、試験ルートの出願者の減少です。これは令和6年度の日本語教員試験の基礎試験があまりにも難しかったために敬遠されたのではないかと思われます。しかしながら、前述したように、令和7年度の基礎試験はベーシックな能力の有無が測られる試験になり、基礎試験の合格率の上昇が予想されます。これは、令和8年度以降の試験ルートの出願者数に影響するのではないかと思われます。

結果通知予定は2025年12月12日(金)

試験の結果通知は2025年12月12日(金)の予定です。通知方法は、オンライン出願上の「マイページ」から確認できることになっています。結果通知書は郵送されませんので、ご注意ください。

受験された方は、本当にお疲れさまでした!

執筆:新城宏治

株式会社エンガワ代表取締役。日本語教育に関する情報発信、日本語教材やコンテンツの開発・編集制作などを通して、日本語を含めた日本の良さを世界に伝えたいと思っている。