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日本語ジャーナル:日本語を「知る」「教える」

日本語教師のための著作権②-教材を基にした資料の共有について

日本語教師の皆さん、授業の準備や授業中、宿題やテストを作成するときなどに「これって著作権的に大丈夫なのかな」と不安やモヤモヤを抱えることはありませんか。アルクではそんな日本語教師の方々にアンケートを取り、具体的にどんなことに疑問を持ったり知りたいと思ったりしているのかお聞きしました。この連載では、著作権についてのモヤモヤが少しずつ晴れることを目指して、アンケートに出た疑問に著作権の専門家がお答えしていきます。(執筆/我妻潤子)

本日のポイント

教材を基にした資料の共有について

1)前提のお話

2)学校法人の日本語学校(35条対象校)の場合

 - 誰が複製・公衆送信ができるのか

3)学校法人の日本語学校ではない学校(35条対象外)の場合

 - 合わせて許諾を取得する

ある日の日本語学校での一コマ

鈴木先生と豊田先生は学校法人である日本語学校の専任教師です。教材の共有について先生たちの会話を参照しながら考えていきましょう。

鈴木先生「『〇△日本語』シリーズのテキストを基にした授業資料ができたから、学校のPCにアップロードして、他の先生にも共有しよう!」

― 後日 -

豊田先生「鈴木先生! 『〇△日本語』シリーズを基にした授業資料見ましたよ。あれ、私も使っていいですか。」

鈴木先生「豊田先生も『〇△日本語』のテキスト持っていますよね。いいですよ。」

豊田先生「持ってます、持ってます。」

前提のお話】<不思議な都市伝説② デジタルと紙の違い>

第1回の記事にも記載しましたが、日本語学校における著作権については、著作権法第35条に記載されている「学校」かどうかということが大きく関係してきます。鈴木先生と豊田先生の会話のように教材の共有についても「学校」に該当するかどうかで対応が変わってきます。今回は既に第1回で掲載した図①のチャートを見ながらそれぞれに合わせて例えば小テストやプリント、PPT資料などの「テキストを基にした授業資料の共有」について考えたいと思います。

まずは「学校」であっても「学校」でなくても共通している点について解説します。時々「デジタル(公衆送信)だと教材の共有はできないが、紙媒体であれば共有ができる」という都市伝説のような声を耳にします。

しかし、図①のチャートを見て頂ければわかるように、紙とデジタル(公衆送信)の差は許諾不要の場合の補償金の支払いの有無のみです(図①では「公衆送信については有償」と表現)。よって、デジタル(公衆送信)であっても、紙媒体であっても授業資料の共有の可否に差がつくわけではありません。著作権は親告罪であると前回の記事(著作権 そのコピー本当に大丈夫?~教材のコピー使用について考えよう!)で解説しました。「デジタルがダメで紙はOK」というのは「デジタルであると権利者にその行為がばれやすく、紙ならばれにくい」と言っているだけにすぎないので、鵜呑みにすると危険です。

図①

1)学校法人の日本語学校の場合

ではこの鈴木先生と豊田先生の会話のケースが著作権法第35条に適用できるか検討してみましょう。まずは著作権法上の「学校」に該当するかという点です。本項では「学校法人の日本語学校」と設定しているのでこの点はクリアできています。

次にコピーや公衆送信ができるのは誰なのかという点を考えます。図①で見ると「教員と学生」とあります。したがって鈴木先生も豊田先生も「教員」ですからこの点もクリアできます。

続いて4つ目の「いつ?」の要件をみると「授業の過程」とあります。これは教員がコピーや公衆送信できるのは、教員自身が担当する授業に限るということです。この4つ目の要件を上記のケースに照合すると、鈴木先生が作成した『〇△日本語』シリーズを基にした小テストやプリント、PPT資料などを豊田先生が共有する場合は、教員自身が担当する「授業の過程」から外れるため、出版社へ権利処理必要ということになります。

一方で権利者によっては、教員同士の教材共有についてのみで権利処理をされても、許諾が出せないという声もあります。そういう場合のために、「引用」という手段があります。引用については、過去に筆者が記載した「日本語教師のためのよくわかる著作権」第2回第3回で詳しく記述していますので、参照してください。

2)学校法人の日本語学校ではない学校(35条対象外)の場合

学校法人の日本語学校ではない学校の場合、『〇△日本語』シリーズを基にした授業資料などを作成しようとすると、著作権法第35条の対象外のため『〇△日本語』の権利者へ許諾が必要となります。授業資料を自分で作成するための許諾連絡の時点で学校内での共有についても言及し、授業資料の作成と共に許諾が取得できれば資料の共有ができます。但し、どうしても権利処理連絡をしたくないということであれば、既述のように「引用」の範囲内で『〇△日本語』を利用するということになるでしょう。

まとめ

・紙とデジタルの差は補償金の有無のみ

・学校であっても学校でなくてもテキストを基にした授業に関する資料の共有については権利処理が必要

・許諾取得が難しい場合は「引用」で対応。ただし、要件を確認すること

我妻潤子 プロフィール

株式会社テイクオーバル コンテンツライツ事業部長、AIPE認定知財アナリスト(コンテンツ・ビジネス)、東京藝術大学非常勤講師。生徒、学生、教員の他、日本語教師を対象とした著作権についてのセミナーや講演の講師を務め、特に利用者、権利者の両面からの解説には定評がある。