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日本語ジャーナル:日本語を「知る」「教える」

「日本語教育の参照枠」に沿った評価の考え方と方法(後編)

評価の問題が悩ましいのは、何をどうすればいいのかという方法論だけに目が向いてしまいがちだからでした。科目ごと・学期ごとの成績のつけ方をどうしようか、進級判定や修了認定の方法や基準をどうするかと、出口のない迷路に入ってしまった人が、そこから脱出する鍵は、守るべき3つの原則に立ち返ることでした。そこで、前編では、原則の一、「日本語教育の参照枠」の評価の三本柱に沿って、評価のポイントを考えました。続く後編では、原則の二、三を順に見ていきましょう。  (竹田悦子・内田さつき/コミュニカ学院)

原則の二 Can doベースの評価にする―目標と噛み合った評価

前編で私たちが考える評価の原則とは次の3点だということをお伝えしました。

原則の一 「日本語教育の参照枠」の評価の三本柱に立ち返る

原則の二 Can doベースの評価にする

原則の三 実現性のある評価にする

原則の二は、Can doベースの評価にすることです。「日本語教育の参照枠」に沿った評価の鉄則は、「日本語を使って何ができるか」をCan doの形で記述した到達目標を出発点とし、それがどのくらい出来るようになったかを評価することです。つまり、学期ごと・科目ごとにそれぞれ対応する到達目標があり、それは「経験、出来事、夢、希望、野心を説明し、意見や計画の理由、説明を短く述べることができる」のようにCan doの形で書かれているはずですから、そのCan doにどの程度到達したかを評価すればいいわけです。どうして、これが「何をどうすればいいか」という方法論の迷路を抜ける鍵になるのか、ピンと来ないでしょうか。評価の鍵の一つは、「妥当性」(測ろうとするものと測っているものが一致していること)ですね。到達目標をCan doで立てたのだから、「妥当性」を高めるために、Can doの達成度を評価基準にする、ということです。

話す・書くなどの産出の力を測るパフォーマンス評価では、ルーブリックが使えます。話す(発表)の口頭テストであれば、たとえば「面接で、将来の予定や計画を1分程度でわかりやすく述べることができる」といったパフォーマンス課題を設定し、ルーブリックを使って評価します。その際、文法や語彙や発音や流暢さは独立の指標としてではなく、課題の遂行にからめて評価するとよいでしょう。たとえば、「日本で就職する予定です」のような、課題達成に支障を及ぼさない文法上のミスは重視せず、予定の意味で「日本で就職しています」と言ってしまうような、意味伝達にかかわるミスは重く見ます。たとえ完璧でなくても、そのレベルで目標とされる課題が達成できれば「A」や「十分にできた」という評価がつきます。これは「言語を使って何ができるか」を重視する「行動中心主義」に基づく言語能力観によるものです。このように、従来のような筆記試験にこだわらなくても、口頭テストの中で、課題遂行にからめた文法力や語彙力を測り、成績評価を行うことが可能です。

ルーブリックは教師評価だけでなく、自己評価やピア評価にも使えます。試験用のと同じ(または簡略化した)形で、課題などを少しずつ変えたルーブリックを何度か使って、自己評価やピア評価を練習したうえで、最後に試験で使うのもいい方法です。ただし、ルーブリックを単純化しすぎて、「完璧・できた・もう少し」とか「4・3・2・1」という尺度だけあって、評価基準具体的な記述がないものは、ルーブリックの意味をなさないので注意しましょう。

ところで、よくある「平常点」なるものの中身は何でしょうか。態度(学習意欲や積極性)や出席率のような、目標達成とは本来無関係な要素を、科目の成績に混ぜ込んでいませんか。

真摯に努力する学生には良い成績をつけてあげたい、逆に、日本語は堪能でも全くやる気の見えない学生の成績は低くしたいと思う気持ちは、同じ教師として理解できます。でも、態度的な側面は科目の評価の外に出しましょう。科目の評価はCan doに重点を置いてつけたほうが整合性が取れます。

出席率もしかりです。出席率が学習へのコミットメントの指標になり、成績と相関していたとしても、科目の評価は出席率とは切り離し、Can doベースでつけましょう。あまりに出席率が低ければ、評定不能で科目不合格にし、学習相談をするのもいいと思います。しかし、科目の成績の一部に出席率の数値を反映したり、欠席や遅刻の回数で減点したりするのは避けましょう。ともかく、「到達目標を達成したかどうかと、この評価項目はどう関係するのか」と自問したときに、きちんと説明がつくのならば問題ありません。

原則の三 実現性のある評価にする――複雑にせず、エビデンスは明確に

原則の三は、実現性のある評価にすることです。あれもこれもと欲張って多様な評価手法を取り入れた結果、だれにとってもわかりにくく、時間や手間がかかりすぎて現実に運用しにくい複雑怪奇な評価システムになる、というのは陥りがちな罠です。学期中にやった活動をすべて最終評価に反映しなければならないと思い込むと、ちまちまと細分化された、全体像の見えにくい評価システムに陥りがちです。また、総合教科書を使っていて、時間割上の科目名と成績表の評価単位が一致しない、同一スキルの評価が複数科目にまたがっていて棲み分けが見えにくい、などもよくあるケースです。

評価システムは、担当する教師、学習者、保護者やエージェントや進学先など、だれにとっても明解でなければなりません。評価システムを設計したら同僚に見てもらい、混乱する要素がないか意見を聞きましょう。わかりにくい場合はどこがわかりにくいのか、重複する要素がないか、科目名のつけ方やレベルごとの評価基準が不揃いでないかチェックしましょう。

技能別の到達度をどこで見るかも明確にしておく必要があります。たとえば、「総合日本語」が週15コマあり、一括して「総合日本語」として成績をつける場合でも、技能ごとに、定期試験の筆記試験で「読む」と「聞く」を、Unitごとの作文で「書く」を、会話テストで「話す(やり取り)」を、学期末のスピーチで「話す(発表)」を見る、といった具合に、エビデンスとなるものを明確にします。もちろん、日々の授業内の観察によっても、技能別の力は推測できますが、すべて教師の観察による、というのでは、感覚的・主観的な評価という印象を拭えません。

到達度をどこで見るか、という点については、プロジェクトワークや総合学習のような活動の評価もあります。特に協働的学習の評価は、成果物がグループ単位になりがちなので、態度や出席率を見ないなら、何を頼りに個人の評価をすればいいのか迷われるかもしれません。そういう時は、その活動の中での学びや気づきを学習者自身に振り返って記述してもらうといいと思います。深い振り返りが起こるように、吟味した問いを立てます。紙のワークシートの代わりに、スプレッドシートなどのICTツールを使えば、協働的な学びにも役立ちます。書かれたものをエビデンスとし、到達目標が達成されたかを評価することができます。

このように、科目ごと・技能ごとや、プロジェクトワークなどの活動についても、何をエビデンスにして到達度を測るかという点を明確にし、関わる人にとってわかりやすく、実現性のある評価、ということを意識しましょう。

迷ったときは三原則に立ち戻って

現代社会には正解のない問題があふれており、日本語教育には今、日本語を使ってその解決に協働で当たる力を養う教育が求められています。喩えて言うなら、サッカーの技術だけではなく、その技術を実際のゲーム(=生きる文脈の中)で生かせる力を養うことです。今、生きた文脈の中で日本語を使って何がどのようにできるかを問う、真正性の高い評価が求められています。これは日本語教育だけの問題でもなければ、一時的な流行でもありません。日本語教育は、世界の言語教育の潮流の真っ只中にあります。答えのない時代の複雑な課題に対応する力をいかに育むか。そのことに資する評価のあり方が問われています。

いかがですか。進むべき道が、見えてきたでしょうか。迷った時は、三つの原則を思い出してください。そして、各学校の特色を生かした良い評価実施しましょう!

プロフィール
内田さつき

コミュニカ学院校長。2001年よりコミュニカ学院勤務。教員養成や『読む力』シリーズの出版に関わる。文部科学省委託主任教員研修実施委員、日本語教育学会支部活動委員、ビジネス日本語教育研究会幹事。外部の多様な機関と連携しながら、学生が社会に主体的に発信できる力を養うための授業実践を行っている。四人の男子の母として育児と仕事の両立に奮闘中♪

竹田悦子

コミュニカ学院顧問。高校英語教諭を経て、1990年よりコミュニカ学院勤務。カリキュラム改訂や『読む力』シリーズの出版に関わる。『「日本語教育の参照枠」活用のための手引き』協力者として留学分野の事例を執筆。「『日本語教育の参照枠』を活用した教育モデル開発・普及事業〈留学〉」に参加。ノンフィクション出版翻訳にも携わる。奥田純子基金*の運営に奮闘中♪

*奥田純子基金  https://sites.google.com/communicainstitute.com/yumekikin

アルクオンラインセミナー
「日本語教育の参照枠」に沿った評価の考え方と方法(全2回)【満員御礼 締め切りました】

「日本語教育の参照枠」についていろいろ勉強しても、なかなかすっきり腹落ちしないのが、「評価」ではないでしょうか。カリキュラムの組み方もわかった、Candoベースの授業も少しイメージできた、けれども、それをどう評価し、カリキュラムに取り入れるのか描けないという声をよく耳にします。今回のセミナーを通じて「評価」についての考え方と多様な方法を知り、実践に取り入れるきっかけとしてください。全2回の連続セミナーです(お申し込み1回で2回分まとめての申し込みとなります)。

① 多様な評価を知ろう 2025年2月28日(金) 20時~21時半

② 多様な評価を実践に取り入れよう 2025年3月14日(金) 20時~21時半

▼講師
竹田悦子(コミュニカ学院顧問)
内田さつき(コミュニカ学院校長)

▼形式
オンライン(ZOOM)

▼参加費
無料

▼詳細・お申込み

https://20250228-alcnihongo.peatix.com