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日本語ジャーナル:日本語を「知る」「教える」

「日本語教育の参照枠」に沿った評価の考え方と方法(前編)

「日本語教育の参照枠」に沿ったコース設計進めるうえで、悩ましいのが「評価」の問題ではないでしょうか。Can doベースのシラバスを立て、行動中心主義に基づく授業を設計するところまではいいとして、評価をどうすればいいのかを考え出すと迷路に入ってしまう、という声をよく耳にします。なぜ、評価の問題はこんなにも悩ましいのでしょうか。それは、ともすれば、何をどうすればいいかという方法論に目が向き、なぜ、そうするのかという原則が見落とされがちだからではないでしょうか。多様な評価が求められる時代の背景や前提を問い直し、原則に立ち返れば、迷路を脱し、進むべき道が見えてくると思います。 (竹田悦子・内田さつき/コミュニカ学院)

真正性の高い評価のための「評価の3原則」とは

評価」と聞くと、無条件にテストの「点数」や教師がつける「成績」が浮かぶという方もあるかもしれません。でも、点数やABCだけでは、学業状況の詳細は掴めませんよね。成績表を見て「あれ、この学生、こんな成績? 今学期はどうしたのかな」と思ったときは、おそらく本人や担当の先生に話を聞いたりして情報を集めますよね。真正性の高い評価とは、問おうとする能力や課題の設定が、現実の言語使用を十分に反映したものになっている評価であり、それは言語を使って何がどのくらいどのように出来るかという個別的で細やかな評価であって、単純な数値やABCには還元できないものです。

では、何をどうすればいいかという方法論だけに振り回されずに、真正性の高い評価を取り入れるためには、どのような原則に拠って立てばよいでしょうか。

私たちが考える評価の原則とは次の3点です。

原則の一 「日本語教育の参照枠」の評価の三本柱に立ち返る

原則の二 Can doベースの評価にする

原則の三 実現性のある評価にする

シンプルですね。この3原則を中心に据えれば、もう評価は怖くありません。

原則の一 「日本語教育の参照枠」の評価の三本柱に立ち返る

では、原則の一、「参照枠」に沿った評価の三本柱を押さえておきましょう。「参照枠」では評価の理念として次の三つを挙げています。 

生涯にわたる自律的な学習の促進

学習の目的に応じた多様な評価手法の提示と活用推進

評価基準評価手法の透明性の確保 

1 生涯にわたる自律的な学習の促進 ―あくまでも学習者が主体

原則の一の1は自律的な学習の促進です。評価は、教師が一方的に行うものではなく、教師と学習者の双方が対話を通じて行うのが理想です。学習者オートノミーはだれもが持っているとはいえ、放っておいては育たず、意識的に働きかけ、伸ばしていくべきものです。学習者自身が持つ、学習に関する選択肢決定権を行使し、学習を実行し、振り返るというサイクルを効果的に回せるように支援します。そのための仕掛けとして、自己評価やポートフォリオの利用が有効です。大人である学習者の力を信じましょう。学習者に妥当な評価ができるわけがないと決めつけたり、教師が評価権限を握って放さないのは考え物です。

自律性というと、教師の考える真面目な良い子を、無意識に想定していませんか。自律性の現れはさまざまです。学習を主体的に捉える学習者は、しばしば、教師の提示する方法に疑問をはさみ、独自の選択を主張します。たとえば、「先生、私にはアカデミック・ライティングは必要ないので、レポートの代わりに詩を書いて提出してもいいですか」といった具合です。そんな時、それを受け止めるオープンな心(柔軟性)と、教育的なかかわり(専門性)が問われます。

2 学習の目的に応じた多様な評価手法の提示と活用推進 ―できることから少しずつ

原則の一の2は、多様な評価手法の活用です。パフォーマンス評価自己評価や相互(ピア)評価ポートフォリオ評価などはいずれも、何がどのように出来たかを多面的に細やかに見る、真正性の高い評価を目指すものです。

新しい手法を取り入れるのは不安ですが、できることから少しずつ取り入れましょう。その際、気になるのは、それをどうやって最終的な成績に組み込むかでしょう。口頭テストのルーブリックのように点数化できるものは比較的簡単ですね。ルーブリックについては『「日本語教育の参照枠」の活用のための手引き』でも説明されているので、参考にしてください。

自己評価も学習者がつけた点数を換算して科目の成績評価の一部に入れることができます。「会話」科目なら、到達目標(Can do)の達成度(授業内の課題達成度)40%、定期試験(口頭テスト)40%、自己評価20%といった具合です。

多様な評価手法といえば、ポートフォリオ評価が浮かびますが、注意したいのは、「ポートフォリオ」を作成することと、それを対象にして「ポートフォリオ評価」を行うことは違うという点です。学習の成果物を集めてフォルダにまとめれば「ポートフォリオ」は作成できます。けれども、それを「評価」の対象とするには、専門性が要求され、手間暇もかかります。「評価」なのだから教師が成績(点数)をつけなければと考えて、安易に、ポートフォリオのファイリングの仕方や書きぶりや内省の質に点数やABCをつけても、それだけでは「ポートフォリオ評価」になりません。

手始めとして、「ポートフォリオ学習/学習マネジメント」等の科目名をつけ、記入と提出をもって「合格」とするのも一法です。また、「評価」という言葉は一旦忘れて、学習者が提出したポートフォリオを間に置いて面談を行い、学習に関する対話の糸口にするというのも、現実的で良い方法だと思います。ポートフォリオ作成には向き不向きがあるとか、取り組まない学生をどうすればいいか、といった声を耳にしますが、自己評価が一律に「できた」だったり、振り返りが「よかった」の一言だけといった学習者がいれば、それを対話のきっかけとし、再考ないし再提出を促せばよいでしょう。

これを読んで、「どんなものか/どう使うのかイメージが湧かないな」と感じるなら、中途半端な理解のまま「なんちゃってポートフォリオ」を作って実施するのはお薦めしません。ポートフォリオもポートフォリオ評価も必須ではないので、先行事例に触れて感覚が掴めてからでも遅くありません。

評価基準評価手法の透明性の確保 -だれにとってもわかりやすい評価

原則の一の3は評価の透明性の確保です。学習開始時のオリエンテーションでは、科目ごとの評価基準と、何をどうすれば目標達成したと言えるのか明示します。終了時には、なぜその成績評価になったのかを学習者と共有し、「異議申し立て」ができる仕組みを作るのもいいですね。「総合評価」という名のブラックボックスは避けましょう。

「形成的評価」と「総括的評価」の違いも意識しましょう。学期末の評価は、到達目標に達したかどうかを見る「総括的評価」です。それに対し、日々の小テストやクイズは、学習状況を把握し、対処するための「形成的評価」として行われるのが一般的です。つまり、勉強したことがどのくらい出来ているかを教師と学習者本人が中間チェックするためのものです。なので、最終評価に、学期途中の形成的評価を安易に混ぜ込むのは避けましょう。

成績に反映しないなら、実施した小テストの点数が宙に浮いてしまう、何のためにやったのか、と感じられるでしょうか。「成績(点数)」をつけることだけが「評価」ではありません。小テストの結果を踏まえたフィードバックや復習も評価活動の一部です。一発勝負ではなく、日々の努力が最終の成績に生かされるようにしたいということなら、単元ごとのまとめテストなどの中ぐらいの括りで総括的評価を行っていく、など説明のつく評価システムにしましょう。

進級や修了の判定の透明性も重要です。どのような条件を満たせば合格なのか、また、再試や補講、再履修などの条件を、「必要に応じて/校長(主任)が相当と認めた時」といった曖昧な表現ではなく明確に定め、透明性のある説明可能な進級システムを作りましょう。

以上、評価の原則の一、「日本語教育の参照枠」の評価の三本柱、①自律的な学習の促進、②多様な評価手法の活用、③評価の透明性の確保に沿って評価のポイントを考えました。「日本語教育の参照枠」に沿った評価は、学習者を主体とし、多様な評価手法を取り入れ、だれにとっても明快な評価を目指す、ということがおわかりいただけたでしょうか。後編 では、原則の二と三を考えてみたいと思います。

プロフィール
内田さつき

コミュニカ学院校長。2001年よりコミュニカ学院勤務。教員養成や『読む力』シリーズの出版に関わる。文部科学省委託主任教員研修実施委員、日本語教育学会支部活動委員、ビジネス日本語教育研究会幹事。外部の多様な機関と連携しながら、学生が社会に主体的に発信できる力を養うための授業実践を行っている。四人の男子の母として育児と仕事の両立に奮闘中♪

竹田悦子

コミュニカ学院顧問。高校英語教諭を経て、1990年よりコミュニカ学院勤務。カリキュラム改訂や『読む力』シリーズの出版に関わる。『「日本語教育の参照枠」活用のための手引き』協力者として留学分野の事例を執筆。「『日本語教育の参照枠』を活用した教育モデル開発・普及事業〈留学〉」に参加。ノンフィクション出版翻訳にも携わる。奥田純子基金*の運営に奮闘中♪

*奥田純子基金  https://sites.google.com/communicainstitute.com/yumekikin

アルクオンラインセミナー
「日本語教育の参照枠」に沿った評価の考え方と方法(全2回) 【満員御礼 締切ました】

「日本語教育の参照枠」についていろいろ勉強しても、なかなかすっきり腹落ちしないのが、「評価」ではないでしょうか。カリキュラムの組み方もわかった、Candoベースの授業も少しイメージできた、けれども、それをどう評価し、カリキュラムに取り入れるのか描けないという声をよく耳にします。今回のセミナーを通じて「評価」についての考え方と多様な方法を知り、実践に取り入れるきっかけとしてください。全2回の連続セミナーです(お申し込み1回で2回分まとめての申し込みとなります)。

① 多様な評価を知ろう 2025年2月28日(金) 20時~21時半

② 多様な評価を実践に取り入れよう 2025年3月14日(金) 20時~21時半

▼講師
竹田悦子(コミュニカ学院顧問)
内田さつき(コミュニカ学院校長)

▼形式
オンライン(ZOOM)

▼参加費
無料

▼詳細・お申込み

https://20250228-alcnihongo.peatix.com