NJ

日本語ジャーナル:日本語を「知る」「教える」

授業の作り方2025-イマドキの語彙授業

前回は読解授業についてお話ししました。読解はもちろん、どの授業でも必ずいくつかの新出語が出てくることと思います。授業中に出てきた語彙はどこまで、どのように扱っているでしょうか。今回は語彙を広げるための学習方法についていくつかご紹介します。前半はイマドキの語彙習得、後半は新出語の扱い方についてです。

イマドキの語彙習得

日本の歌を聞いたりドラマを見たりして日本語を覚えたという学習者はこれまでもいましたが、最近では動画で日本に興味を持ち、動画で日本語を覚えたという学習者が増えてきました。ある時、初来日にも関わらずこなれた日本語を話す学習者がいたので、国で何を使って勉強していたのかを聞いたところ「日本の恋愛リアリティーショーです!」との答えが返ってきました。ドキドキしながら毎回欠かさず観ていたそうです。海外にいても自分の興味に合わせて生の日本語が簡単に聞ける時代ですね。

学習者が教科書以外にもさまざまな日本語に触れているということを見込んで、夏休み明けのある授業では、「休み中に覚えた日本語」というテーマで学習者に発表をしてもらいました。覚えた言葉とそれを覚えたきっかけを発表する短いものでしたが、教科書ではなかなか出てこない言葉ばかりでみんな興味津々で聞いていました。いくつかご紹介します。

「フェス」…音楽イベントに行く際、「フェスティバルに行く」と言ったところ夏祭りに行くと勘違いされ、「フェス」という言葉を覚えた。

「ご要望」…アルバイト先で接客する際に「ご要望がございましたら…...」という言い方があると先輩に教えてもらった。

「ムチムチ」…「夏休みに食べ過ぎてここら辺がムチムチしてきた」と腕(二の腕)を触りながら話している人がいたので覚えた。

「咆哮」…ゲーム中に何回も出てきた。

「改装中」…街中に貼ってあった。気になったので写真に撮っておいて、後で調べた。

「リア充」…日本人の友達に教えてもらった。

「ワイロ」…?!

これらはほんの一例ですが、覚えたことば1つとっても人それぞれで、どんな夏休みを過ごしていたのか想像できるものもあります(ちなみに「ワイロ」はどこで覚えたのかは不明ですが、言葉の響きと意味がおもしろかったので覚えたそうです)。国内に限らず海外でも、インターネットに広がる日本語を使って同じタスクができるのではないかと思います。

新出語の扱い方

読解や聴解に出てきた言葉や、教科書に新出語として出てきた言葉の中にもその場で意味が分かればOKという語彙もあれば、意味が分かった上で運用できるようになってほしいものもあるでしょう。

新出語が出てきた際、まず読み方(発音のしかた)と意味を確認します。意味の導入にあたっては、授業中、辞書(スマホ等の辞書機能を含む)を使わせるかどうか意見が分かれるところかと思います。教師の説明を集中して聞いてもらうために、授業中の辞書の使用を控えるように指示している機関もあるでしょう。

一方で、最近の学習者はスマホを片手に授業を受けていますので、類語の違いでさえも自分で素早く調べることが可能になりました。意味はスマホやパソコンを使って各自で調べることを推奨している機関もあると思います。教師による説明と辞書機能の使用、どちらが良い悪いというものではないので、それぞれのメリットデメリットを考え、その時々で学習効率が良いと思われる方を選びます。

意味が分かっているだけでなく、的確に使いこなせるようになってほしい場合、さらに正しい活用、使用にふさわしいTPO・文脈・文体などを理解しておく必要があります。そのために、運用練習を積極的に行います。運用練習としては、新出語を使った文作りやQA練習が一般的かと思います。その際、ただ答えを添削してそれぞれに返却するだけではなく、クラスで回答を共有する時間をもつと、新たな学習につながることがあります。学習者の答えの中には、意味や使い方を勘違いしている誤用や、学習者が共感しやすい例、考えさせられる内容等が含まれていることがあるからです。

学習者の回答から広がる日本語

たとえば初級では、「まず」という新出語を使って「朝起きて、まず何をしますか」という質問をし、それに対し学習者が書いた回答をまとめ、プロジェクターで共有しました。「水を飲みます」という回答が一番多く、「スマホを見ます」「顔を洗います」など様々な回答がありました。「朝起きて、まず服を着ます」という回答にクラスがざわついたので、「何も着ないで寝ましたか」と聞いてみると、書いた本人は「いいえ! 服をチェンジしました」と大慌て。「服をチェンジ、何と言いますか」とクラスに問いかけ、知っている学習者から「着替えます」という言葉を引き出し(誰も知らなければこちらから導入し)、「朝起きて、まず着替えます」という文を完成させました。「シャワーします」という回答も多かったので「シャワーをあびます」という言葉を確認しました。

中上級では「スムーズ」という言葉を使った文作りの中に「彼女の肌はスムーズだ」という文がありました。“smooth”を直訳したのだと思いますが、日本語だと少し不自然です。この場合は「なめらか」あるいは「すべすべ」というオノマトペを使うことを伝えました(カタカナ語は英語の直訳として使うと、このように不自然な文がよく出てきます)。

また、「任される」という言葉から「突然重要な仕事を任されたら、あなたはどう感じますか」という問いを出した際には、意見が2つに分かれました。

つらくなる。/死にたくなる。/ストレスがたまる。/不安になる。/最悪……死ぬほどやりたくないけど、できるだけがんばる

このようなネガティブな意見が出た一方で、下記のようなポジティブな回答もありました。

やればできると思う。/成長の機会だと思う。/やる気を起こさせてくれたと感じる。/責任のある仕事をまかされて満足。/よし、行くぞ! チャレンジだ!

クラスメートの様々な回答に感心したり笑いが起きたり。共有した回答が、そのまま話し合いのテーマになることもありました。クラスメートの文の中にも語彙を広げるヒントがあふれています。

意味が分かればよいのか、分かった上できちんと使えるようになってほしいのか、新出語が出てきたら目指すゴールを考えておきましょう。毎回時間が割けなくても、授業の時間が少し余ったとき等を利用して、言葉を広げるやりとりをしてみてはいかがでしょうか。

執筆:望月雅美

さまざまな日本語教育機関でこれまで8~88歳の日本語クラスを担当。現在、埼玉大学日本語教育センター非常勤講師兼諸々。著書に『日本語教師の7つ道具シリーズ1授業の作り方Q&A78編』(大森雅美名義、共著)『どう教える?日本語教育「読解・会話・作文・聴解」の授業』(共にアルク)などがある。音楽と笑いと自然を愛する3児の母。